研究課題/領域番号 |
17K05828
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大川 祐輔 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (00213645)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 金属ナノ構造体 / 機能電極 / 銀塩写真化学反応 / 金/銀中空ナノ構造体 / 直接電子移動型バイオセンサ / 貴金属/銀複合ナノ構造体 |
研究実績の概要 |
本研究は,銀塩写真現像の原理を用いて生成されるフィラメント状の金属銀ナノ構造体 (pAgNF) をプラットフォームとする新規機能電極系の構築である.ハロゲン化銀乳剤から得た pAgNF に対し,写真処理液の一種である金錯体溶液で処理することによって,金と銀からなる中空のナノ構造体 (hAuAgNS) と酸化還元酵素フルクトースデヒドロゲナーゼ (FDH) を組み合わせることで,高い電子移動効率を示す直接電子移動 (DET) 型バイオセンサが構築できることを示し,学術論文として発表した. また,hAuAgNS について構造形成過程についての検討を進め,電気化学モデルの検討を通して金(I)錯体の還元析出と金属銀の酸化溶解とがガルバニ反応として進行することが確認され,引き続き解析を進めている (学会にて一部口頭発表). pAgNFに対して金以外の金属を導入する検討も開始した.白金錯体溶液で pAgNF を処理することで,hAuAgNS に類似した中空の白金-銀複合ナノ構造体が得られることを見出した.パラジウム錯体溶液を用いたところ,金や白金とは異なる,ナノ粒子がフィラメント状に集合した構造が形成されることも見出した.構造の詳細,生成条件やその機能についての検討している.これらについては一部口頭発表済みまたは近日口頭発表予定である. 一方,基板電極上に AgNF を直接生成する方法として,銀電析と写真現像を組み合わせた系について,再現的な生成条件を確立するに至り,論文発表した.この電析・現像法 pAgNF についても上述の金錯体溶液処理で形態変化が観察され,また FDH に対する DET 活性も確認された.しかし,形成される構造は乳剤法とは完全に同じではなく,また DET 活性も乳剤法に比べて低く,引き続き検討している (近日,学会発表予定).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,銀塩写真現像反応によって得られる銀ナノフィラメント (pAgNF) を機能電極の構築に利用することを検討している.電気化学材料として pAgNF を利用するためには,表面の積極的な制御が重要と考え,銀よりも化学的・電気化学的安定性に優れる金を,これも写真化学的な処理液を利用して pAgNF に導入しようとするなかで,中空構造をもつ金銀ナノ構造体 (hAuAgNS) が見出され,これがフルクトースデヒドロゲナーゼ (FDH) に対して高い直接電子移動活性をもつ電気化学反応場として利用できることを見出した (論文発表済み).hAuAgNS の構造形成過程を理解することは,その機能を理解する上で,またさらなる構造制御や新規構造形成のためにも重要であり,構造形成過程の解析を重点項目の一つとした.その結果,概要に記したようにその一端が明らかになってきた. 一方,これまでハロゲン化銀微粒子から分散液の形で調製後,基板電極上に固定化して使用してきた AgNF を基板電極上に AgNF を直接生成する方法についても提案し,申請段階では十分な再現性が得られていなかった電析・現像法についても重点的に検討を進め,再現的な生成条件を確立するに至った (論文発表済み). 一方,2017年度には十分な結果の得られていなかった金以外の異種金属元素の導入については,白金とパラジウムについて,ユニークな構造形成に至る条件が見出され,検討を進めている. これらの成果の一部については,2報の学術論文が発表済みであるほか,学会で口頭発表済み,または近日発表予定である. これらを総合的に勘案し,おおむね順調と評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は,これまでの結果を踏まえ,以下の内容に重点を置いて研究を行う. 1. 乳剤法,電析・現像法,および金析出処理によるナノ構造体の調製法および諸条件の評価,改良.これらの知見を活かした構造制御についても検討する.とくに中間体であるハロゲン化物の種類や現像条件と構造の関係に着目している. 2. 現在の電析・現像法では再現性は高いものの,2種類の電気化学条件を用いているため,電極の量産性に限界があり,より簡便な調製法の開拓は大きな意味がある.すでに一つのプロセスは完全に化学的手法に置き換えられることがわかってきており,もう一つのプロセスについても検討を行っている. 3. hAuAgNSの電気化学機能の解析.とくに電析・現像法で得られた hAuAgNS は,現状では FDH に対する DET 活性が乳剤法 hAuAgNS に比べて低い.この原因を探ることは,同時に,提案ナノ構造体の電気化学機能の根源とも関連する,重要な意味を持つと考えており,調製条件や得られたナノ構造と DET 活性の関係を検討を進める.あわせて他の電極触媒能についても検討する. 4. 表面処理や他材料との複合化による機能導入.とくに金以外の異種金属として,白金とパラジウムを複合化したナノ構造体について,特徴的なナノ構造体となることがわかってきたため,生成条件や生成物の特性についての検討を進める. なお,研究成果については随時関連学会や論文の形で公表する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
1万円以下の少額であり,計画と大きく異なるわけではなく,本年度内で調整する必要性が認められない.次年度の物品費に充当する予定.
|