本研究は,銀塩写真現像の原理を用いて生成されるフィラメント状の金属銀ナノ構造体(AgNF)をプラットフォームとする新規機能電極系の構築である.構造の母体となるAgNFの生成を,ハロゲン化銀微粒子からなる写真乳剤から得て基板電極上に導入する方法に加え,基板電極上にAgNFを直接生成する方法として,金属銀の電析・ハロゲン化に写真現像を組み合わせた方法を新たに開発した.さらに生成したAgNFの特性を制御し,あるいは金属銀にはない表面活性を得ることを狙って,AgNF表面に他の貴金属を複合させることを中心に検討を行った. 乳剤法,電析法のいずれの方法で調製したAgNFも,写真処理液の一種である金錯体溶液で処理することによって,金と銀からなる中空のナノ構造体(hAuAgNS)を形成することが示され,これらは酸化還元酵素フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)を組み合わせることで,良好な電子移動効率を示す直接電子移動型バイオセンサが構築できることがわった.乳剤法hAuAgNSについては構造形成過程について,電気化学モデルを用いて検討し,ガルバニ反応として進行することが確認された. 金以外の金属についても検討し,白金錯体溶液で乳剤法AgNFを処理することで,hAuAgNSに類似した中空の白金-銀複合ナノ構造体(hPtAgNS)が得られる条件を見出した.hPtAgNSは還元糖に対して温和な電位条件下でも高い電解酸化触媒活性を持つことがわかり,糖類の電気化学検出への可能性が見出された.電析法AgNFではナノ構造が異なる生成物が得られており,引き続き構造形成要因や電極触媒活性の検討を行う予定である. 一方,AgNF そのものの構造形成要因を明らかにし,また構造を制御することを目的としてさまざまな検討を行った結果,現像速度が支配的に影響することがわかってきた.
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