研究課題
イオンビームによる水素導入法は、原理的にあらゆる物質に多量の水素を導入することが可能であり、低温で照射すれば室温では水素が脱離しやすい試料に対しても水素を高濃度に導入することが可能である。また、同時に物性測定を行うことで、水素誘起の物性や機能をその場で評価可能であり、固体中の水素に関する詳細な研究も可能となる。本研究では、原理的にあらゆる物質に多量の水素を導入することが出来る水素イオンビーム照射装置を用いて低温での水素注入およびin situ物性測定を行い、多様な薄膜の物性や機能を劇的に変化させることにより、機能性物質の創成を行う。SrTiO3はペロブスカイト構造をもつ酸化物であり、基礎および応用研究において重要な物質であり盛んに研究されている。本研究では、パルスレーザー堆積法(PLD法)で作成したSrTiO3ナノ薄膜に対し低温での水素イオンビーム照射を行い、絶縁体を金属へ変えることに成功した。低温で高濃度の水素を導入した後、温度を室温まで上げることにより、抵抗が不可逆的に増大する現象を見出した。これは、SrTiO3に注入された水素の一部が脱離することによると考えられる。低温で再度水素導入をすることにより、抵抗が元の値まで下がり、くり返し抵抗を変化させることが出来た。さらに、SIMS(二次イオン質量分析法)による分析やホール効果測定などによって、侵入型水素が高濃度にドーピングされていることを示した。本成果を学術論文としてChemical Communications誌で報告したところ、その内容が高く評価されChemical Communications誌の表紙を飾った。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、高濃度の水素を注入する方法として、低温水素イオンビーム照射装置を開発し、in situ物性測定を確立した。新しく開発した開閉可能な輻射シールドによって低温の3.8Kまでの実験を可能にした。またその装置を用いてパラジウムの水素誘起超伝導の観測や酸化物絶縁体の水素誘起金属化などに成功した。ペロブスカイト型酸化物SrTiO3への高濃度水素ドープによる金属化とin situ物性測定による詳細な物性研究を行い、Chemical Communications誌で報告し、その内容が高く評価され表紙を飾るなど、順調に成果が出ている。
これまでに開発した低温での水素イオンビーム照射装置を用いて、遷移金属酸化物やパラジウムなどのナノ薄膜の水素誘起(超)伝導、高性能熱電特性、新奇物性探索を行う。薄膜用X線回折装置を用いて、水素イオンビーム照射前後でin-planeおよびout-of-planeの回折実験を行い、構造変化と物性変化の関係を評価する。さらに、SIMS(二次イオン質量分析法)による試料内部の厚さ方向の元素分析により、試料内部での水素濃度とその分布を定量的に評価・解析する。UV-Vis-NIRスペクトルやカソードルミネッセンス測定によりバンドギャップや電子状態の変化を調べ、さらに、Hall効果の測定によりキャリヤ濃度や易動度の変化を調べる。また、水素を重水素に変えてイオン照射実験を行い、同位体効果について検証する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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