本研究では,ラセミ化合物結晶に適応可能な光学分割法である「優先富化現象」の適応範囲の拡張を目的とした.具体的には本現象の鍵プロセス「結晶化の際に自発的に起こる多形転移」の代わりに外部刺激応答分子の可逆的構造変化よって分子の会合状態を制御して,擬似的に多形転移を誘発させて優先富化現象を誘起させること目指した. 優先富化現象を示したプロピオン酸誘導体の分子構造をモチーフとして,新たにアゾベンゼンを置換基としてもつプロピオン酸誘導体を種々合成して基礎的なデータの確認を行った.これらの化合物に結晶について第二次高調波発生(SHG)の有無を検討し,候補化合物の絞り込みを行った.UV照射化において結晶化を試み,in situ 温度調節X線回折測定法を用いて、この現象の鍵プロセスと考えられる多形転移の直接観察を試みた.UV照射による擬似多形転移をin situ PXRD装置を用いて観測した.アゾベンゼン誘導体はUV未照射溶液では直ちに結晶化が起こったが,UV照射溶液では結晶が析出するまでにかなりの時間を要した.これはcis体がtrans体より溶解度が高いことと異なる会合状態をとるためであると考えられる.UV照射条件で析出した結晶の回折パターンは,単結晶X線構造解析から計算された粉末回折パターンとは大きく異なっていた.観測セル内の温度を徐々に昇温すると回折パターンが変化して,単結晶解析から得られた粉末回折パターンと同様のものになった.このことから溶液中でcis体の会合により,準安定な結晶が析出し,さらに温度上昇に伴って相転移が起こることを明らかにした. アゾベンゼン部位を2つもつ化合物は,コングロメレートとして得られ,優先晶出法を適用することにより光学分割を行うことができた.しかし,この化合物にUV照射をおこなうと複数の構造異性体が生じたため,その結晶化の過程を追跡することはできなかった.
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