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2018 年度 実施状況報告書

非線形性の高い自己駆動系による時空間パターン発現

研究課題

研究課題/領域番号 17K05835
研究機関広島大学

研究代表者

中田 聡  広島大学, 理学研究科, 教授 (50217741)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード非線形科学 / 非平衡系 / 振動現象 / パターン形成 / 自己駆動 / 自己組織化 / 分岐 / リズム
研究実績の概要

非線形性の高い自己駆動系を構築し、分子レベルから時空間パターンを制御よく発現するために次の研究を行った。
(1)両親媒性分子による光制御:2,2-bis(2-chlorophenyl)-4,4',5,5'-tetraphenyl-1,2'-biimidazole(o-Cl-HABI)は、紫外線照射により二量体から単量体に可逆的に変化することが知られている。またこの分子は、表面圧を変えることができるので、水面滑走する自己駆動系の運動制御するための分子膜として活用することができる。そこで、o-Cl-HABI分子膜上に、表面張力差を駆動力として自己駆動する樟脳円板を浮かべ、光照射で運動制御する系を構築した。その結果、往復運動する条件に紫外線を照射するとランダム運動に変化することを見い出した。このような光照射による運動モードスイッチングの発現機構を、二量体であるo-Cl-HABI、単量体であるTPIR、及び駆動体の樟脳の表面圧に基づいて考察した。
(2)長さを持つ2個の振り子運動を示す自己駆動モーターによる同期運動:従来の系は質点について行ってきたが、本研究では、長さを持つ自己駆動体をカップリングさせた系について実験と理論の両面から研究を行った。具体的には、アセトン(駆動力源)を含ませたニトロセルロース製の紐の一端を水相の壁面に固定し、もう一端をフリーにして水面に浮かべたところ、往復運動することを見い出した。更に紐の先端と中心では位相差も周期振動することから、長さを生かした自己駆動系であることを確認した。さらに2本の紐をカップリングしたところ、ヒモの長さに依存して、同相、同相と逆相の共存、非同期の3つのパターンを見い出した。そして共存領域では、初期値で同相または逆相が選択されれた。これら特徴的な往復運動と同期現象を反応拡散方程式と運動方程式を結合した数理モデルを使って定性的に再現した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(1) 表面ポテンシャルに極小値を持つ両親媒性分子膜の合成と評価:これについては、o-CHABI分子を両親媒性分子膜として研究成果があることから概ね順調である。一方、それ以外の両親媒性分子について、合成等検討を行っているが、より安定な分子膜の構築が鍵を握ることが判明している。これらがクリアになると、ローカルな場での光刺激応答や刺激の周期的摂動に対する可逆的運動応答が期待できる。
(2) 空間非一様な光照射により局所的な表面ポテンシャル差を持つ光異性化分子膜の作成と評価:これについては、同様にo-CHABI分子の光応答性について研究成果があることから概ね順調である。一方、クマリン分子の光応答については、現在も運動条件を探索中であるが、光照射による可視化の可能性や照射条件のポイントが明らかになりつつあることから進展するものと考えられる。
(3) 駆動力分子の拡散場に依存した運動様相:これについては、クマリン分子を駆動力として用いた実験で、加水分解速度と分子膜の展開条件から、近日中に実績が報告される予定である。またメントールの振動運動について水相の深さ依存性が従来とは異なることを見い出した点も次年度への新たな展開である。
(4) 複数個の自己駆動モーターによる時空間運動パターン形成: これについては、まず長さを持つ自己駆動体を提案し、一端を固定してカップリングを行う実験に成功したことから、順調に研究が進んでいる。また複数個の自己駆動体によるパターン形成については、サリチル酸ブチル系等、液滴の集団現象を使ったパターン形成について実験と理論の両面から研究を進めているところであり、現在、集合する機構を分子膜の可視化により評価しているところである。

今後の研究の推進方策

(1) 表面ポテンシャルに極小値を持つ両親媒性分子膜の合成と評価:まず二重結合を持つカルボン酸からなる両親媒性分子膜の相転移を活用することを1つの戦略とする。これにより、相転移温度近傍温度で駆動力の指標である、表面圧vs.表面積の勾配が変化し、それに伴う運動応答が発現することが期待される。一方、それ以外の両親媒性分子について、表面積変化に対して可逆的かつ安定な分子膜を構築する。
(2) 空間非一様な光照射により局所的な表面ポテンシャル差を持つ光異性化分子膜の作成と評価:クマリン分子の光応答について、より強度な青紫色レーザーやフィルタリングしたLEDシステムを導入して、自律運動の局所光照射による運動制御を行うと共に、駆動力分子の展開を可視化して、運動様相と分子膜展開との関係を明らかにする。
(3) 駆動力分子の拡散場に依存した運動様相:クマリン分子を駆動力として用いた実験で、加水分解速度と運動モーとスイッチング(連続運動と振動運動)の関係を明らかにする。また加水分解速度の評価、その他の物理化学的パラメータを用いて、理論的に運動モードスイッチングと振動運動の周期を定量的に解明する。加えて、メントールの振動運動について水相の深さ依存性が従来のマランゴニ効果とは異なることを見い出しており、この機構を解明する。
(4) 複数個の自己駆動モーターによる時空間運動パターン形成: 複数個の自己駆動体によるパターン形成については、サリチル酸ブチル系等、液滴の集団現象を使ったパターン形成について実験と理論の両面から研究し、液滴が自己集合と分離を繰り返す機構を分子膜の可視化により評価する。

次年度使用額が生じた理由

実験条件の最適化と装置の改良・修繕に伴い、次の実験を待機させていたが、クリアになったため、次年度、予定通り予算執行して実験を進めるとともに、更に発展させることができる。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Florida State University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Florida State University
  • [国際共同研究] Polish Academy of Science(ポーランド)

    • 国名
      ポーランド
    • 外国機関名
      Polish Academy of Science
  • [国際共同研究] North Minzu University/Zhejiang Sci-tech University(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      North Minzu University/Zhejiang Sci-tech University
  • [雑誌論文] Characteristic responses of a 1,2-dipalmitoleoyl-sn-glycero-3- phosphoethanolamine molecular layer depending on the number of CH(OH) groups in polyols2019

    • 著者名/発表者名
      Nakata Satoshi、Nomura Mio、Yamaguchi Yuta、Hishida Mafumi、Kitahata Hiroyuki、Katsumoto Yukiteru、Denda Mitsuhiro、Kumazawa Noriyuki
    • 雑誌名

      Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects

      巻: 560 ページ: 149~153

    • DOI

      10.1016/j.colsurfa.2018.10.012

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Self-Propelled Motion of a Camphor Disk on a Photosensitive Amphiphilic Molecular Layer2019

    • 著者名/発表者名
      Nakata Satoshi、Nasu Kyoko、Irie Yasutaka、Hatano Sayaka
    • 雑誌名

      Langmuir

      巻: 35 ページ: 4233~4237

    • DOI

      10.1021/acs.langmuir.8b04285

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Modeling studies of heterogeneities in glycolytic oscillations in HeLa cervical cancer cells2019

    • 著者名/発表者名
      Amemiya Takashi、Shibata Kenichi、Du Yichen、Nakata Satoshi、Yamaguchi Tomohiko
    • 雑誌名

      Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science

      巻: 29 ページ: 033132~033132

    • DOI

      10.1063/1.5087216

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Synchronization of self-propelled soft pendulums2018

    • 著者名/発表者名
      Nakata Satoshi、Kayahara Katsuhiko、Kuze Masakazu、Ginder Elliott、Nagayama Masaharu、Nishimori Hiraku
    • 雑誌名

      Soft Matter

      巻: 14 ページ: 3791~3798

    • DOI

      10.1039/c8sm00517f

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Promotion and inhibition of synchronous glycolytic oscillations in yeast by chitosan2018

    • 著者名/発表者名
      Shibata Kenichi、Amemiya Takashi、Kawakita Yu、Obase Kohei、Itoh Kiminori、Takinoue Masahiro、Nakata Satoshi、Yamaguchi Tomohiko
    • 雑誌名

      The FEBS Journal

      巻: 285 ページ: 2679~2690

    • DOI

      10.1111/febs.14513

    • 査読あり
  • [学会発表] 自己駆動体の往復運動2019

    • 著者名/発表者名
      中田 聡
    • 学会等名
      反応拡散系と実験の融合
    • 招待講演
  • [学会発表] 形状に依存する自己駆動体の自己反転2019

    • 著者名/発表者名
      松藤丈郎・中田聡
    • 学会等名
      日本化学会春季年会
  • [学会発表] 2個のBZビーズのカップリングによる化学波の進行方向の変化2019

    • 著者名/発表者名
      久世雅和・中田聡他
    • 学会等名
      日本化学会春季年会
  • [学会発表] BZ振動子に発現する時空間パターンの電圧制御2019

    • 著者名/発表者名
      堀坂真理・中田聡
    • 学会等名
      日本化学会春季年会
  • [学会発表] あたかも生き物のように振る舞う自己駆動体2018

    • 著者名/発表者名
      中田 聡
    • 学会等名
      電子科学研究所 公開シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 水面滑走するクマリン粒子の加水分解に対する応答2018

    • 著者名/発表者名
      入江康孝・中田聡他
    • 学会等名
      コロイド及び界面化学討論会
  • [図書] Self-organized motion2019

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Nakata et al. eds.
    • 総ページ数
      371
    • 出版者
      Royal Soceity of Chemistry
  • [備考]

    • URL

      http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/bukkan/index_j.html

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公開日: 2019-12-27  

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