本研究は、樹状分子-金属ナノ粒子複合体を調製し、その柔軟性の高い疎水性内部空間を利用して、分子量選択的な疎水性分子の可溶化と、ユニークな選択性を示す有機合成反応触媒としての利用を検討することを目的としている。令和元年度の研究実績は以下のとおりである。 1. これまでに合成した第0世代から第3世代まで、4種類の樹状分子を用いた樹状分子-金ナノ粒子複合体及び銀ナノ粒子複合体の調製法について、再現性及び安定性の高い方法の検討を行った。反応条件および還元剤の種類について詳細に検討したところ、昨年度に開発した、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として共存させる方法が最も優れた方法であることを確認した。また、クエン酸還元によって得られた金ナノ粒子に対する樹状分子の修飾では、安定な複合体は得られなかった。このことは、安定な複合体形成には、金ナノ粒子が樹状分子ミセル中で成長することが必要であることを示唆している。 2. 第0世代から第3世代までの樹状分子-金ナノ粒子複合体及び銀ナノ粒子複合体への疎水性色素化合物の取り込み実験を行い、樹状分子複合体への疎水性化合物取り込みを確認した。取り込み量は世代数の大きな樹状分子複合体ほど多くなる傾向がみられた。 3. 3-ヒドロキシ―2-ピロンをジエンとして用いるDiels-Alder反応において、第0世代から第3世代までの樹状分子-金ナノ粒子複合体及び銀ナノ粒子複合体の塩基触媒としての評価を行った。昨年度に明らかにした通り、塩基触媒としては作用するものの、複合体内部に取り込まれている証拠は得られなかった。 4.樹状分子に代わって、ポリアクリル酸を基盤とした有機分子シェル-白金ナノ粒子複合体の調製法を確立した。得られた複合体は、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤とする還元反応において顕著な触媒活性と、ユニークな化学選択性を示した。
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