研究実績の概要 |
分子の電子スピンと核スピンを量子ビットとして活用し、量子コンピューティングの手法の一つである断熱的量子計算のアルゴリズムをパルスESR法で実行するのが本研究の目的である。回路型量子計算に比べ断熱的量子計算はエラーに対して耐性がある点が特徴であり、本研究で用いる断熱的量子計算による素因数分解のアルゴリズムは回路型量子計算のアルゴリズムよりも少ない量子ビット数で大きな整数の素因数分解を実行することができる点も特徴である。本研究では3量子ビットによる整数175の素因数分解、4量子ビットによる整数56153の素因数分解の実行を目指している。量子計算を実行するために、用いる分子のいくつかの物理量を知る必要があるが、特に量子ビット間の相互作用を知ることが重要である。 提案した3量子ビット系(1、2)、4量子ビット系(3)とは別に3量子ビット系としてニトロキシドラジカルをユニットとした弱交換相互作用系トリラジカル(5,6)が先に準備できたので、これらの分子を研究した。弱交換相互作用系トリラジカル5は直鎖上にニトロキシドラジカルを配置した分子である。量子ビット間の相互作用を決定するために、5をポリマー(PMMA)に希釈し、パルスESR法の1つであるPulse Electron-Electron Double Resonance(PELDOR)法を適用し、3つの量子ビット(A, B, C)のうちAC間のスピン-スピン双極子相互作用が4.9 MHzであると決定した。他のAB間、BC間の相互作用は今回の手法では決定できず、ホスト分子の単結晶にトリラジカルを希釈した系による測定が必要である。
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