研究実績の概要 |
ジアリールエテン(DAE)の「ずれ応力と可視光の複合的効果による固相フォトクロミズム(PC)の確立と機構の解明」と,その特性を利用した「波長可変固相フォトクロミズムの創成」を目標とした。DAE結晶の開環体から閉環体への光異性化を誘起する光の波長は応力に依存して長波長化する。この現象を示す4種のDAE (CMTE, BFCP, DMCP, TMCP)結晶にDAC型回転式高圧セルによるずれ応力と光を作用させると,アンビルのキュレット面上の応力の強さに応じて色変化が観察される。この色変化を横軸の応力と縦軸の光励起エネルギー上に示した相関図を作成した。相関図には,光とずれ応力の複合的効果による光異性化領域と,その周囲に光異性化を示さない4領域―①常圧ではPCを示さないBFCP, TMCPの低応力領域,②紫外域のPCを示さない領域,③応力により吸収帯と照射光とが一致しない領域,④強い応力がPCを抑制する領域―に分けられた。令和3年度はBFCPとCMTEの②の境界を定めた。相関図から,たとえばBFCPは応力0.4-4 GPa相当と光313-440 nmの範囲で,応力によって光異性化の波長が可変となることが明らかになった。DAEの固相PC制御は開・閉環を伴うため,ずれ応力による化学結合の新たな制御法に繋がる。 応力効果を明確にするために光や熱の作用の受けない試料や条件での分光測定を行い分子構造について調べた。PC分子のニトロスピロピラン類は,ずれ応力のみで開環体への固相での異性化が進行することを令和2,3年度に顕微赤外分光法により確認した。また,光異性化を起こさないロイコ色素類(クリスタルバイオレットラクトン等),多環式芳香族炭化水素(ペンタセン等)の化学結合のずれ応力による状態変化を観測した。一方,Diels-Alder付加体では現有の装置のずれ応力では結合の変化は見られなかった。
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