研究課題/領域番号 |
17K05844
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
幅田 揚一 東邦大学, 理学部, 教授 (40218524)
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研究分担者 |
池田 茉莉 千葉工業大学, 工学部, 助教 (40711403)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 銀イオン / サイクレン / 銀ーパイ相互作用 / CH-パイ相互作用 / 銀食い分子 |
研究実績の概要 |
(i) シンナミル基を側鎖として導入したサイクレン/Ag+錯体に嵩高さが異なるプロピオニトリル(CH3CH2-C≡N),イソブチロニトリル((CH3)2CH-C≡N),ピバロニトリル((CH3)3C-C≡N)をゲスト分子として添加し,それらの1H NMRスペクトルを用いて滴定実験を行ったところ,いずれも側鎖シンナミル基のシグナルがシフトしたことから嵩高さが高いゲストを用いても側鎖による疑似空孔内に包接することを明らかにした. (ii) オクタアザサイクレンをジエステルとエチレントリアミンの2:2環化によって合成し,その分離方法を検討した.これまでは1:1環化生成物を再結晶で分離したのち,残渣を何度もカラムクロマトグラフィーで分離していたが,これを再結晶と併用することによって高純度の中間体を効率的に得ることができた.また,X線結晶構造解析も行い構造を確認した. (iii) 3個のサイクレンを持つトリ(テトラアームドサイクレン)および5個のサイクレンを連結したペンタ(テトラアームドサイクレン)を合成し,それらの金属錯体の構造の検討を行った.これらの化合物はそれぞれ5段階の反応で合成した.それぞれの構造は各種スペクトルおよび元素分析にて確認した.溶液中での配位子のAg+錯体の構造は1H NMRとUV-visを用いた滴定実験で検討した.1H NMR滴定実験では,Ag+の添加とともに起こるサイクレン側鎖の特徴的なシグナルの変化から,配位子とのAg+錯体の形成が示唆された.また,UV-vis滴定実験の結果から金属錯体ごとのコンホメーションに関しても検討を行った. 平成29年度で得られた結果は第2世代型銀食い分子開発のための重要な知見であり,予定通り当該研究を継続する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) シンナミル基(Ph-CH=CH-CH2-)を側鎖として導入した化合物(L)を合成し,嵩高さが異なるプロピオニトリル(CH3CH2-C≡N),イソブチロニトリル((CH3)2CH-C≡N),ピバロニトリル((CH3)3C-C≡N)をゲスト分子として用い,L/Ag+錯体のこれらのアルキルニトリルに対する包接能を1H NMR を用いて検討した.その結果,いずれの有機ニトリルを添加しても有機ニトリルのプロトンシグナルは高磁場シフトしたことから,嵩高い置換基をもつ有機ニトリルであっても溶液中で包接錯体を形成することを確認した.また,1H NMR 滴定実験から見積もった各ニトリルに対する安定度定数を測定した. (2) オクタアザサイクレンを合成するために,2:2環化にて合成した中間体の分離法を検討したところ,これまで分離にカラムクロマトグラフィーのみで行っていたものを,カラムクロマトグラフィーと再結晶法を合わせて行うことによって分離効率が高くなり,また収率も向上することを明らかにした.現在オクタアザサイクレンの前段階まで合成が完了している.また,環化反応において,予期せぬ化合物(1:1環化生成物に二酸化炭素が挿入された化合物および,2:2環化生成物の空孔に二酸化炭素が包接された化合物)を単離し,その構造をX線結晶構造解析によって確認した. (3) サイクレンの4個の各窒素元素にアームドサイクレンを連結させたデンドリマー型銀食い分子(G1)の合成を完了し,その構造を1H, 13C NMR,ESI-MS,にて確認した.この化合物の銀イオンに対する安定度定数をUV-visによって検討した.現在,この分子の性質について検討を継続している.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 旋光度が小さいため絶対配置決定が困難な光学活性有機ニトリルをシンナミル基を側鎖として導入した化合物(L)の銀錯体を絶対配置決定への応用を行う.また,シンナミル基のベンゼン環の4-位に,ニトリ基, フルオロ基, メトキシ基等の置換基を導入した化合物を合成し,同様の検討を行う. (2) シンナミル基(Ph-CH=CH-CH2-)とベンジル基(Ph-CH2-)を2個ずつ導入したアームドサイクレンを合成し,シンナミル基2個でも包接機能を有するか検討する. (3) オクタアザサイクレン合成の際に得られた予期せぬ化合物の生成メカニズムを検討する.また,最終目的物であるオクタアザサイクレンの合成を完了する. (4) デンドリマー型銀食い分子(G1)の性質について検討をおこなう.
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次年度使用額が生じた理由 |
他大学の研究分担者が予定額より少ない支出であったため当該助成金が生じた.翌年度分として請求した助成金と合わせ,物品費として使用する.
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