研究課題/領域番号 |
17K05845
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
桑原 俊介 東邦大学, 理学部, 准教授 (40359550)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子モーター / 分子マシン / シス-トランス光異性化 |
研究実績の概要 |
現在のがん治療は放射線療法,化学療法が主流であるが,これらの治療法は副作用を伴う。副作用を最小限にするためにがん細胞だけを殺すための分子標的薬が開発されているが,その数は未だ少ない。本研究では,分子モーターを用いてがん細胞の細胞膜を破壊する新しいタイプのがん治療法の開発を目指す。分子モーターを細胞膜に結合させた後,可視光を照射する。分子モーターの機械的な一方向の回転運動により,通常細胞と比べ有意に柔らかいがん細胞の細胞膜のみを選択的に変化,破壊する手法の開発を計画した。 平成30年度の研究では,可視光の照射で回転を起こす新規分子モーターの合成と光異性化挙動の追跡を行った。昨年度の研究で課題であったMcMurry反応の条件を検討し,分子モーターのシス体のみを選択的に得られる条件を見出した。シス体の分子モーターに可視光で励起するRu(bpy)発色団を連結する反応を行った結果,目的の分子モーターを立体異性体の混合物として得ることができた。この混合物に475 nmの可視光を照射し1H NMRスペクトルで追跡した結果,シス-トランス光異性化反応と考えられるシグナルのシフトが観測された。すなわち,可視光で分子モーターを回転させることが可能であることがわかった。 次年度は,分子モーターの単離,構造解析,および詳細な回転挙動を明らかにする。また分子モーターに水溶性側鎖を導入した後,細胞への導入と光照射による細胞膜の開裂の制御を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究では,可視光の照射で回転を起こす新規分子モーターの合成と光異性化挙動の追跡を行った。新規分子モーターの中心骨格であるオレフィン部位の合成において,トランス体とシス体の混合物が得られ,それらの分離に手間がかかることに課題が残っていた。McMurry反応の条件を検討した結果,シス体のみが得られる条件を見出した。シス体の分子モーターに2つのビピリジル部位を導入した後,ジクロロビス(2,2'-ビピリジン)ルテニウムと反応させ,Ru(bpy)発色団を備えた分子モーターを立体異性体の混合物として得た。この混合物に475 nmの可視光を照射し1H NMRスペクトルで追跡した結果,シス-トランス光異性化反応が起こることがわかった。一方,Ru(bpy)発色団を連結していない分子モーターに475 nmの光照射を行った場合ではこのような光異性化反応は起こらなかった。このことは,可視光で励起されたRu(bpy)発色団からのエネルギー移動で分子モーターが回転することを示唆している。 以上,平成30年度の研究では,計画していた新規分子モーターの合成に成功したことから,研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Ru(bpy)発色団を備えた分子モーターは,Ru(bpy)部位にキラリティーが存在することから立体異性体の混合物として得られた。この分子モーターの詳細な構造解析を行うため,クロマトグラフィーや再結晶法を用いて単離精製を試みる。単離が困難である場合は,キラルなRu(bpy)発色団を調製し分子モーターへの導入を試みる。また,単離した分子モーターを用いて,詳細な回転挙動を明らかにする。 一方,分子モーターの片方の側鎖にRu(bpy)発色団,もう片方の側鎖にエチレンオキシド側鎖等を導入した誘導体を合成し,水溶性や回転挙動を調べる。その後,種々の細胞に合成した分子モーターを導入し,光照射を行いながら細胞を観察し,細胞膜の開裂の挙動を調べる予定である。
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