研究課題/領域番号 |
17K05846
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
周 彪 日本大学, 文理学部, 教授 (80434067)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単一分子性伝導体 / ディラック電子系 / 分子運動自由度 |
研究実績の概要 |
今年度では、初の常圧分子性ディラック電子系[Pt(dmdt)2]と同形構造を取り、ディラック電子系となることが期待できる[Ni(dmdt)2]の合成をし、その物性研究を行った。単結晶X線構造解析の結果、[Ni(dmdt)2]は[Pt(dmdt)2]と同形構造である事が確認された。[Ni(dmdt)2]の粉末圧縮ペレット試料の伝導度は室温(295 K)で200 S/cm、温度依存性をあまり示さずに、低温(10 K)でも100 S/cmと高い値を示した。磁化率測定では、[Ni(dmdt)2]は強い反磁性を示し、磁化率は室温で0.3×10-4 emu/mol、以降は70Kで-2.2×10-4 emu/molを示すまで低下し続けた。[Ni(dmdt)2]の物性挙動は[Pt(dmdt)2]と酷似しており、抵抗率と同様にディラック電子系であることが示唆されていた。[Pt(dmdt)2]では磁化率が120 Kでのゼロまでしか低下しなかったことと、その変化量が[Pt(dmdt)2]で1.2×10-4 emu/molであったのに対し、[Ni(dmdt)2]では倍以上の2.5×10-4 emu/molであることから、より強くディラック電子系性が現れていると考えられる。また、13C-NMRの測定の結果でも、[Ni(dmdt)2]の方が強くディラック電子系性が発現していると示唆されていた。第一原理バンド計算では、[Pt(dmdt)2]とよく似ているバンドエネルギー曲線とDOSが得られ、ディラックコーンの存在が確認された。これにより、[Ni(dmdt)2]が確かにディラック電子系であると証明された。また、[Ni(dmdt)2]のフェルミ面が[Pt(dmdt)2]より細くなっており、金属性が低くなっていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、大学院生達は一時的に登校禁止によって実験ができなくなったので、一部予定していた測定が一旦止まっており、現況としては順調に進展しているとは言い難い。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には、新型コロナウイルスの状況を鑑みつつ、可能な範囲で予定していた実験を実施し、分子性ディラック電子系の物理的な性質を明らかにすることに努める。 更に、最近ディラック電子系理論の専門家である小林(名古屋大学)のグループは、[Pt(dmdt)2]はエッジ強磁性を示す可能性が高いと指摘されている。この新奇な磁気構造を調べるために磁気光学カー効果測定や磁気抵抗測定を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延によって、参加を予定していた国際会議が中止となっただけではなく、実施を予定していた実験も中止せざるを得なかったため。 令和3年度には、新型コロナウイルスの状況を鑑みつつ、可能な範囲で実験を実施し、成果を着実に出すために予算を使用する。
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