研究課題/領域番号 |
17K05848
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研究機関 | 公益財団法人九州先端科学技術研究所 |
研究代表者 |
新海 征治 公益財団法人九州先端科学技術研究所, ナノテク研究室, 研究室長 (20038045)
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研究分担者 |
田丸 俊一 崇城大学, 工学部, 教授 (10454951)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超分子ゲル / 高分子ゲル / 会合誘導蛍光 / 多糖 / 刺激応答性 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
我々のグループでは、近年、カチオン性のオリゴフェニレンビニレン(OPV)型の凝集誘起発光(AIE)分子を用いて、ヘパリンやヒアルロン酸などのアニオン性の多糖類に対するセンシングについて検討し、多糖上の負電荷密度とAIE分子上の正電荷数に応じて、異なるAIE分子の組織化とそれに伴う検出様式の発現を確認している。本年度は、AIE分子のゲスト誘起による会合の多様化について検討を行った。分子内にグアニジウムカチオンを持つキラルなOPVは、エナンチオマーの関係にあるRR, SS型の1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とそれぞれ相互作用することで、それぞれ異なる会合形態とこれに起因する発光特性を示すことが明らかとなった。また、分子内に4級アンモニウムとフェニルホウ酸を導入したOPV分子は、pH変化に応答して、全く異なる会合形態を示すことが明らかとなった。これはこのAIE分子が、pH依存的なフェニルホウ酸部位の荷電変化に鋭く応答して、会合形態を変化させることを示している。 一方、新たな天然由来の高分子型の物理ゲル化剤として、食品添加物生産時の産業廃棄物として処理されている酵母残渣から、簡便な処理により高いヒドロゲル形成能を示す多糖βグルカン類を効率よく単離する事に成功した。興味深いことに、このβグルカンが形成するヒドロゲルは顕著な熱刺激応答型体積収縮を示すことが明らかとなった。ゲル形成能や熱刺激応答性はβグルカンを構成する、β-1,3-グルカン主鎖とβ-1,6-グルカン側鎖の比や分子量などに依存しており、これらの機能性が調節可能である事が示された。さらに、ヒドロゲル中でβグルカンが特有の3重らせん構造を形成する事を確認し、疎水性の蛍光色素を3重らせんに包摂した超構造からなるヒドロゲルの調製に成功した。なお、本法は現在特許申請中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、これまでに培ってきた研究知見を本申請研究において活用するために、凝集誘起発光を示す分子(AIE分子)の凝集過程の制御に関する新たな知見の蓄積を進めた。その結果、僅かな分子構造の違いが大きな会合形態とそれに伴う蛍光機能発現に大きく影響を与える事を明らかとした。この知見は、AIE分子を用いることで、系の僅かな状態変化を増幅して明瞭な応答へと変換できることを意味している。よって、AIE分子を用いた超分子ゲル化剤の開発とその高分子ゲルとの融合により、高分子が示す状態変化を超分子ゲルによって蛍光発現などへと変換するシステムの構築が可能であることを強く示唆するものである。また、天然由来の多糖から高いゲル形成能と興味深い刺激応答性、ならびにらせん構造形成に伴う分子包摂能を併せ持つ、高分子ゲル化剤を開発することに成功した。このヒドロゲルを用いて、疎水性の機能材料が刺激応答性を持つらせん性多糖に取り込まれ、3次元的なネットワークを形成した、機能性超構造を構築することにも成功しており、本研究が目指す、高分子と超分子の融合による機能増強を可能にする素材としての活用が期待出来るものである。以上の様に、本年度は、超分子の会合制御と新しい刺激応答型高分子ゲル化剤の開発において一定の成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、前年度に得た知見を融合して、本研究の主目標である、高分子ゲルと超分子ゲルの複合化を進め、お互いのゲル機能増強について積極的に検討を進める。まず、オリゴフェニレンビニレンなどのAIE型分子やオリゴチオフェンなどの蛍光性分子を基盤とした超分子ゲル化剤の開発を進める。また、本研究では超分子ゲル化剤の会合・非会合を巧みに制御することが、目標達成のために不可欠である。そこで、開発した超分子ゲル化剤の会合挙動と、ゲスト分子添加などによって誘導される超分子ゲル化剤の会合挙動の制御について知見を蓄積する。一方で、高分子鎖に超分子ゲルユニット、もしくは超分子ゲル化剤と複合化するユニットを導入した、機能修飾高分子ゲルを開発する。この高分子ゲル中で対応する超分子ゲルを調製することで、高分子と超分子とが積極的に干渉し合う、複合ゲルを調製する。得られた複合ゲルについて、高分子、超分子それぞれに対応した刺激下で発現する機能と、分子構造の相関について評価する。高分子には、ポリアクリル酸やポリNIPAM、βグルカンのような、独自の刺激応答性を持つものを活用することで、高分子の刺激応答を超分子に伝搬させる学理の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生については,これは本年度予定していた実験等が完了したため、物品(薬品等)の費用が不要となったためである. 本年度生じた残金については、次年度配分予定の予算と合算し、次年度の実験等に必要な物品(薬品等)の購入費に充てることを計画している.
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