研究課題/領域番号 |
17K05856
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
湊 盟 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40239306)
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研究分担者 |
周 大揚 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00324848)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 錯体触媒 / ポリシロキサン / 機能性ポリマー / フェロセン / モリブデンーケイ素錯体 / ケイ素ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究は現代の産業界において,不可欠な材料であるポリシロキサン(シリコーン)の特異な性質に着目し,このSi-O主鎖骨格上に様々な官能基を導入することで,C-C炭素骨格からなる有機高分子機能材料を上回る性能が期待できる新たな無機機能性高分子材料を創製することを最終目標としている。 ポリシロキサンは優れた耐熱性,耐候性,耐寒性,電気絶縁性,離型性,撥水性など特異な性質とオイル,樹脂,ゴムなど多様な製品形態を示すことから現代文明の様々な分野でなくてはならない素材として利用されてきた。大きな可能性を秘めているポリシロキサンではあるが,有機ポリマーのように機能性材料として広く展開されてはいない。この最大の原因は,製造の難しさにある。ポリシロキサンの工業的な合成はほとんどの場合,大気中で不安定なクロロシラン(RR’SiCl2)もしくはアルコキシシラン(RR’Si(OEt)2)を原料として行われる。これらのオルガノシリコン化合物は反応性の高さから,多くの官能基と反応し共存できない。また置換基Rがメチル基の場合は重合し易く,高分子量のポリマーが得られるが,より嵩高いアルキル基では,反応性が低下し,ポリマーの生成は難しくなる。ところで,申請者はこれまで遷移金属錯体と有機ケイ素化合物の反応を検討してきた。その過程で,2級有機シラン類(RR’SiH2)からポリシロキサン -(RR’SiO)n-を合成する重合反応に活性を示す新たな触媒を見出した。この触媒反応は官能基に対する許容性が大きく,従来の方法では重合中に破壊される官能基も影響を受けない。そこで,この触媒システムを利用し,多様な機能性官能基を有するシランモノマーを重合し,生成する新規なポリシロキサンを機能性材料として評価することまでを目標として現在研究を遂行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在,以下の二つのアプローチで研究課題に取り組んでいる。 ①機能性ポリシロキサンの原料となる様々な官能基を有する2級有機ヒドロシラン類(RR’SiH2)の合成。 ②より高活性な錯体触媒の開発を含む,重合反応の最適化の探索。 まず①に関しては,塩基性機能が期待できるアミノ基(NMe2)を有するもの,特異な物性を有するパーフルオロフェニル基(C6F5)を有するもの,可逆的酸化還元活性があるフェロセニル基を有するもの,光学活性な官能基(l-メンチル)を有するものなどの2級有機ヒドロシラン類の合成に成功し,これらの重合を検討し,それぞれ対応する数千程度の平均分子量を有する機能性ポリシロキサンを得た。現在それらの構造解析並びに物性評価を行っている。例えば,光学活性なメンチルシランから合成したポリマーは,原料のモノマーよりも高い比旋光度を有しポリマー全体として不斉な環境が誘起されたことを示唆した。さらに,種々のアルキル鎖でフェロセニル基が主鎖骨格のケイ素に結合した新規なポリシロキサンを合成し,サイクリックボルタムメトリーにより,これらポリマーの電気化学的挙動を明らかにした。一方,②に関しては,以前から利用していたモリブデンヒドリド錯体が空気中の酸素により触媒活性が低下するという欠点を改良するための検討を行った。結果,この錯体から誘導されるモリブデンアセチリド錯体が酸素で劣化する事無く長期保存が可能で,触媒活性もモリブデンヒドリド錯体に遜色がないことを見出した。以上の結果は,初年度の成果としてほぼ予定どおりである。また,今後の研究を遂行するのに資する知見もいくつか得ることができたため,おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は,これまでに様々な1級および2級シラン類の合成を検討してきた。これらはケイ素上の置換基として脂肪族から芳香族まで幅広い官能基を含む。この過程で,立体的に嵩高いものや電子供与性あるいは電子吸引性の置換基を有するシラン類を合成する方法を確立することができた。前述したように,これらの手法を用いて,29年度にはいくつかの新規な2級シラン類を合成することに成功し,これらを原料としたポリシロキサンを得た。このように重合に供する官能基を導入したシランモノマーは,多くの場合既知物質ではないため,引き続きこれらの分子設計と合成を検討する。導入する機能性官能基としては、イオン交換樹脂およびキレート樹脂としての機能を発現させるため,カルボキシル基・スルホン酸基,またフォトレジスト材料のためのフェノールグループさらには高分子錯体触媒の合成に必要なホスフィン基などを考えている。これらの置換基がケイ素原子に直接結合する場合,あるいはメチレン鎖やベンゼン環のようなスペーサーを介して結合する場合など,分子設計の検討項目は多岐にわたる。 また,機能性ポリシロキサンの合成に関して,モノマーの官能基が複雑になり,立体的にも込み合ってくるので,さらに高活性な触媒の開発が要求される可能性もある。そこで,これまでの研究成果を踏まえて,より広範囲な電子状態そして立体化学を有する新規モリブデン―ケイ素錯体触媒を調製し,重合反応に対する活性の向上を目指した探索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品として薬品・ガラス器具等の購入費を計上したが、バーゲンセールや割引期間があったため、実際に支出した金額は予定予算よりも5千円程度下回った。これらは次年度の消耗品の購入に回す予定である。
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