ジアミドは医農薬品の合成中間体や工業材料として有用な化合物であり,ジニトリルの触媒的な水和反応はジアミドの合成手法として有力な手法の一つである.しかし,ジニトリルの水和反応は,隣接する二つのシアノ基が関与する副反応を伴うため,一般に制御が難しい.これに対して,アセトアミドを H2O 供与体として用いる水移動型水和反応では,多様なジニトリルから選択的にジアミドが得られることがわかった.触媒としては Pd(CH3CN)4(BF4)2 が好ましく,酢酸溶媒中,グルタロニトリルをはじめとする様々なジニトリルの水移動型水和反応が進行することを明らかにした.この反応は可逆であるため,減圧条件で反応を実施することで平衡を生成系に傾け,収率よくジアミドを得ることができる.反応はデカグラムスケールで実施できること,生成したジアミドはクロマトグラフィーを用いることなく再結晶によって精製できることも分かった.さらに,この触媒系はポリアクリロニトリルの部分水和にも有効であることが判明した.溶媒を酢酸からジメチルホルムアミドに変更することで,ポリアクリロニトリルから精密にアクリロニトリルとアクリルアミドの共重合体を得られることが分かった. 以上の研究と並行して,環状ペプチド pneumocandin B0 (抗真菌剤) に含まれる一級アミドの選択的な脱水を試みた.その結果,水-ジメチルスルホキシド混合溶媒中,ジクロロアセトニトリルと Pd 触媒で処理することで,ヒドロキシ基や二級および三級アミドなど他の官能基を損なうことなく一級アミドをシアノへ導けることが判明した.
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