研究課題
引き続きシガトキシンCTX3Cの合成研究を行った。この化合物は海洋産の渦鞭毛藻が生産する神経毒であり、大規模な食中毒シガテラの原因物質の一つである。これまでの研究で分子左側に相当するA-E環部の合成を完了したため、本年度は分子右側に相当するH-M環部のカップリング前駆体への変換を行った。特に問題となったのが、鍵段階に用いるアリルスズ部分の導入であるが、これについてはエステル化と還元アセチル化、およびメタノール付加を経由することで解決した。さらに側鎖部分をカルボン酸へと変換し、A-E環部アルコールとのエステル縮合を行った。鍵段階である還元アセチル化と分子内アリル化について詳細な検討を行い、目的の環化体を得ることに成功した。現在は、側鎖部分の末端アルケンへの変換と、最終段階である閉環メタセシスによるシガトキシンCTX3Cの全合成について検討中である。これと平行して、海洋産のTHPマクロライド類の合成研究も進めている。これまでの研究により、抗腫瘍性THPマクロライドであるダクチロライドの全合成に成功しているが、本年度は新たにTHPマクロライドであるエニグマゾールおよびネオペルトライドの形式全合成に成功している。本研究においても、カルボン酸およびアルコールフラグメントをそれぞれ合成した後にエステル縮合と還元アセチル化、および立体選択的分子内アリル化を行うことによって分子骨格を収束的に合成することに成功している。さらに同様の方法論を活用し、種々のTHPマクロライド類の収束的合成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度はシガトキシンCTX3Cの全合成を達成することはできなかったが、左右の二大フラグメントをエステル化を分子内アリル化によって連結することに成功している。残すは閉環メタセシスによるF環部の構築のみであり、全合成完了まで後一歩である。さらに、分子内アリル化反応を鍵段階として、海洋産マクロライドであるエニグマゾールおよびネオペルトライドの形式全合成を達成することができた。鍵段階である分子間および分子内アリル化反応はどちらも極めて立体選択的に進行し、目的の化合物のみを炭一物として与えた。結果として二つのフラグメントを効率よく連結する、極めて収束的な合成を達成することができた。これらの成果は、申請者が開発した分子内アリル化を基盤とするエーテル環構築法の有用性と実用性を示す結果であるといえる。本手法のさらなる応用として、より複雑な構造を有するTHPマクロライドの合成研究への応用について検討しているところである。
シガトキシンCTX3Cについては、これまでの研究によってA-E環部とH-M環部をエステル縮合し、鍵反応である還元アセチル化および分子内アリル化によって連結することに成功しているこの反応で形成されたG環部の立体化学を確認するとともに、F環部の構築が全合成完了に残された課題である。閉環メタセシスによってF環部を構築するためには、多くの二重結合が存在する中で末端アルケンのみを手がかりに増炭する必要がある。この変換に用いる反応の選択が重要な課題である。THPマクロライドの合成研究に関しては、これまで合成研究から得た知見をもとに、更に複雑な構造を有するマクロライド類の全合成を行い、新たな医薬シーズの開発を目指す。
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