研究課題/領域番号 |
17K05866
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
福山 高英 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332962)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 多環芳香族化合物 / 芳香族カルボン酸 / アルキン / 環化反応 / シクロヘプタフルオレン / シクロヘプタカルバゾール |
研究実績の概要 |
本研究では、カルボン酸を基質とした、分子内環化反応に関する研究でこれまでに培った基礎的な知見を基盤とし、芳香族カルボン酸とアルキンとの分子間反応を検討し、炭素ー酸素、炭素ー水素結合の連続活性化に基づく触媒的脱水型環化反応による多環式芳香族化合物の新たな合成法を確立することを目的としている。これまでに1ーナフトエ酸とアルキンとの反応により脱カルボニル化を伴わない環化反応が進行し、ペリナフテノン誘導体が得られることを見出している。一方、ビアリールカルボン酸とアルキンとの反応では、脱カルボニル化反応を伴って環化反応が進行し、フェナントレン誘導体が得られることを見出している。興味深いことに、五員環を有する基質を用いた際には、脱カルボニル化は抑制され七員環を有するトロポン誘導体が得られると知見を有している。これはカルボキシル基のイプソ位の炭素と環化する炭素の距離が離れているため、七員環生成が優先したものと考えられる。ビアリールカルボン酸のオルト位同士を五員環で縮環したフルオレノンカルボン酸を用いて検討を行ったところ、七員環生成が優先し、シクロヘプタフルオレンジオンが良好な収率で得られることを見出した。この化合物はこれまでに合成例を見ないシクロヘプタフルオレンの有望な合成中間体であるため、現在シクロヘプタフルオレン合成に鋭意取り組んでいる。一方、カルバゾールカルボン酸を基質とした反応においても、環化反応が進行し七員環を含む四環性化合物が得られることを見出した。この生成物をフェニルリチウムと反応させ、生成したアルコールをHBF4で処理したところ、シクロヘプタフルオレンの等電子体であるシクロヘプタカルバゾニウムカチオンを合成することに成功した。さらに、ヘテロ原子を含む複素環合成や安息香酸とベンズチアゾールとの脱カルボニル型分子間カップリングが効率よく進行することも見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、カルボン酸類の脱水的環化反応に関する研究でこれまでに培った知見を基盤とし、芳香族カルボン酸とアルキンとの反応により、炭素ー酸素、炭素ー水素結合の連続活性化に基づく触媒的脱水型環化反応による多彩な多環式芳香族化合物の合成法を確立することを目的としている。平成30年度はフルオレノンカルボン酸とアルキンとの反応によりシクロヘプタフルオレンジオンが効率よく得られることを見出し、これを利用したシクロヘプタフルオレン合成に取り組んでいる。シクロヘプタフルオレンはよく知られているピレンの異性体であるが、計算科学的には閉殻構造よりも開殻構造の方が安定であることが示唆されて来たが、これまでに合成例はなく、合成ターゲットとして極めてチャレンジングなものである。一方で、カルバゾールカルボン酸とアルキンとの反応で得られる四環性化合物から、シクロヘプタフルオレンと等電子構造を有するシクロヘプタカルバゾニウムカチオンの合成に成功した。X線構造解析によりその構造を確認しており、今後その電子的、構造的物性を明らかにして行く。また、アントラニル酸、チオサリチル酸とアルキンとの反応では、キノリノン、チオクロメノンが効率よく得られることを見出し、カルボン酸とアルキンとの脱水型環化反応がヘテロ環合成においても有望であることを明らかとすることができた。以上のように芳香族カルボン酸とアルキンの、炭素ー酸素、炭素ー水素結合の連続活性化に基づく触媒的脱水型環化反応が多彩な多環式芳香族化合物の合成法として有望であることを実例を持って示すことができ、極めて順調に本研究は進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度はこれまでに得られた知見をもとに、シクロヘプタフルオレン合成に取り組む。また、単離精製に成功しているシクロヘプタフルオレンの等電子体であるシクロヘプタカルバゾニウムカチオンの電子的、構造的特徴を明らかとして行く。種々の分光学的手法と共に、計算化学的取り組みを合わせて行う。また、窒素原子上の置換基を取り除き中性種であるシクロヘプタカルバゾールの合成検討を行い、その構造的、電子的性質の解明に取り組むものとする。さらに、アントラニル酸、チオサリチル酸とアルキンとの反応による、キノリノンおよびチオクロメノンの合成の一般性を明らかとし、他のヘテロ環合成へと展開して行く。安息香酸とヘテロ芳香族化合物との脱カルボニル型分子間カップリングの効率化を行い、基質一般性の拡大をおこなっていく。
|