研究課題/領域番号 |
17K05867
|
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
武内 亮 青山学院大学, 理工学部, 教授 (00216871)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ヒドロアルキル化 / 炭素-水素結合活性化 / 単純アルケン / イリジウム |
研究実績の概要 |
炭素-水素結合による炭素-炭素多重結合への付加は、高い原子効率の炭素‐炭素結合形成である。芳香環上の配向基を手がかりにしたヒドロアリール化反応は活発に研究されているが、ヒドロアルキル化反応の開発は遅れている。本研究では、カチオン性イリジウム触媒を用いた活性メチレン化合物による脂肪族単純末端アルケンへの分子間ヒドロアルキル化反応を開発することを目的とする。 平成29年度ではアルケンの適用範囲の拡大として1,3-ジケトンによる内部アルケンへのヒドロアルキル化を検討した。アセチルアセトンと2-オクテン、3-オクテンとの反応の検討を行った。2-オクテンとの反応では、1-オクテンと同じ生成物が得られたが、3-オクテンとの反応では、ほとんど反応が進行しなかった。2-オクテンとの反応で、1-オクテンとの反応と同じ生成物が得られることから、反応系中で2-オクテンから1-オクテンへ異性化が進行していると考え、触媒とアルケンのみで反応すると、2-オクテンから1-オクテンへの異性化が認められた。内部アルケンへのヒドロアルキル化は内部アルケンから末端アルケンへの異性化を経て進行すると考えられる。また、2-メチル-1,3-ジケトンの1-オクテンへのヒドロアルキル化も検討したが、収率の向上には至らなかった。 反応機構に関する知見を得るために、末端のメチレン炭素がすべて重水素化したアルケンを用いて、反応を行った。ヒドロアルキル化生成物において、基質の両方のアルケン炭素に、重水素が取り込まれ、その量は半分以上失われていた。先に述べたように、内部アルケンの異性化が観測されたことも併せて考えると、アルケンのヒドロイリデーションにより生成したイリジウムアルキル錯体のβ-水素脱離の過程が含まれると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1,3-ジケトンによるヒドロアルキル化の適用範囲の拡大として、内部アルケンとの反応を試みた。しかし、内部アルケンへの直接のヒドロアルキル化は進行しなかったので、内部アルケンへの基質適用範囲の拡大は困難であった。これらの知結果と末端メチレンを重水素化したアルケンの反応で得られた結果と合わせて検討することで、反応機構に関する知見を得ることができた。反応中間体の単離を試みたが、単離して構造決定することはできなかった。ヒドロイリデーションによるアルキル錯体の生成が考えられるが、その他の反応機構として、イリジウムエノラートを経由する機構やラジカル機構などの可能性もあるので、今後引き続き検討を行っていく。 アセト酢酸エステルによる1-オクテンへのヒドロアルキル化が進行し、マルコフニコフ型生成物のみが高収率で得られることを見出している。本ヒドロアルキル化の反応条件を詳細に検討し、最適反応条件を決定した。 本年度は、反応機構の検討にかなり注力したが、1,3-ジケトンによるヒドロアルキル化反応の反応機構全容の解明はできなかった。この点について成果発表には至らず、十分とはいえないが、アセト酢酸エステルによる脂肪族1-アルケンへのヒドロアルキル化の最適条件が確定したことで、予定通り進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度では、本年度1-オクテンとアセト酢酸メチルの反応により決定した最適条件を用いて、β-ケトエステルによる脂肪族末端アルケンへのヒドロアルキル化の適用範囲の拡大を行う。本反応において共存することができるアルケン上の官能基について明らかにする。ケトエステルの適用範囲について明らかにする。広範囲な基質に対する一般性を確認し、有機合成法としての有用性を明らかにする。アセト酢酸メチルによる1-オクテンへのヒドロアルキル化生成物はジアステレオマーの等量混合物として得られるが、これらのジアステレオ選択性を改善するため、基質の立体効果を調べる。ヒドロアルキル化反応とKrapco脱エステル化反応のワンポット反応を行う。これは、メチルケトンによる分子間ヒドロアルキル化反応と等価である。種々の末端アルケンとケトエステルのワンポット反応を行い、その一般性を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
反応機構の検討にかなり注力し、種々の原料合成には至らなかった。試薬および溶剤の効率的な利用に努めた。これらの理由で残額が生じた。本年度にβーケトエステルによるヒドロアルキル化反応の触媒の最適化と反応条件が決定したため、次年度では種々の基質を合成して触媒反応を行う予定である。研究の進展によって必要な試薬および溶剤の量が増加することが見込まれる。残額をこれを充てる。
|