研究課題/領域番号 |
17K05874
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
椴山 儀恵 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 准教授 (80447127)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | キラルブレンステッド酸触媒 |
研究実績の概要 |
キラルブレンステッド酸触媒による触媒的不斉合成は、活性中心となる酸性官能基のプロトンが反応基質に触媒的に作用し光学活性な生成物を与える。希少金属元素を触媒として用いない環境に調和した分子変換プロセスであり、近年、注目を集めている。しかし、活性中心として機能する酸性官能基が限られ、キラルブレンステッド酸触媒の汎用性は、いまだ十分ではない。汎用性の拡充に向けて、活性中心となる酸性官能基の開拓が必要である。そこで、本研究では、新たな酸性官能基としてホスフィン酸を活性中心とする新規キラルブレンステッド酸触媒を設計・開発し、従来、困難であった触媒的不斉合成を実現することを目的として、検討を行っている。 29年度までに、触媒の母骨格となるキラルビナフチルにホスフィン酸部位を導入する有機合成反応を確立することができ、所望のキラルホスフィン酸触媒を大量合成することに成功した。30年度は、29年度に大量合成したキラルホスフィン酸触媒の不斉触媒機能を明らかにするため、水和物を親電子種として用いる触媒的不斉反応に焦点を絞り、検討を行った。研究は、以下の通りに実施し、次の成果を得た。 【検討課題1】グリオキサール水和物とシロキシジエンとのヘテロディールスアルダー反応:ホスフィン酸上の置換基を検討し、目的とする環化体を低収率ではあるものの中程度のエナンチオ選択性で得ることに成功した。収率の改善をめざして反応条件を種々検討したが、収率を改善することはできなかった。 【検討課題2】グリオキサール水和物とアズラクトンとのアルドール型反応:反応溶媒を種々検討したところ、いずれの溶媒においても、目的とするアルドール付加体が良好な収率で得られることがわかった。一方で、反応条件の探索、触媒ならびに反応基質の置換基検討を行ったが、エナンチオ選択性は20%程度にとどまった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
30年度の検討で、キラルホスフィン酸触媒が、水和物の活性化に十分な触媒活性を有することを見出すことができた。一方で、残念ながら良好な不斉収率を与えるまでには至らなかった。これは、不斉触媒反応場の構築において、ホスフィン酸では、ホスフィン酸上に直接置換基が導入できる利点が十分に活かされていないためと考えられる。30年度に得られた研究結果は、キラルブレンステッド酸触媒として汎用されているキラルリン酸では達成されていない有機分子変換反応を改めて調査する必要性とキラルホスフィン酸触媒の構造的特徴と反応基質との相互作用を再考する必要性を示唆している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、30年度に引き続き、触媒的不斉合成反応の検討を重点的に行う。30’年度の検討において、キラルホスフィン酸触媒存在下、グリオキサール水和物は親電子剤であるグリオキサールに問題なく変換できたため、グリオキサール水和物を親電子種として、グリオキサールに結合形成が可能な求核剤の検討を中心に研究を実施する。目的とする生成物が得られた場合は、触媒置換基の検討ならびに反応条件の最適化を実施し、高立体選択性の獲得をめざす。高立体選択性が得られた場合は、エナンチオ選択性の発現において、キラルホスフィン酸触媒の置換基の重要性を明らかにし、その不斉触媒機能を確立する。弱い非共有結合性の相互作用の関与を明らかにするため、適宜、NMR実験を行うとともに、計算化学の研究グループと共同研究を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
29年度に大量合成した触媒を用いることができ、また、29年度に予備実験で反応基質を購入したため、30年度は、新たに試薬を購入することなく研究を実施することができた。実験の際に使用する実験消耗品は、29年度に購入したものを使用した。平成31年度の研究において、研究の進捗に合わせて、合成試薬、汎用試薬、汎用溶媒ならびに実験消耗品を購入する。
|