研究課題/領域番号 |
17K05875
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井改 知幸 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (90402495)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 共役高分子 / らせん / キラリティー / 不斉増幅 / イソシアニド |
研究実績の概要 |
本申請では、“適切に分子設計を施したアミノ酸由来のイソシアニドモノマーの重合系で発現する高度な不斉増幅現象”を活用した革新的キラルマテリアルの創製を目指し、以下に示す成果を得た。 1. 重合解析、高分解能原子間力顕微鏡観察の結果に基づき、グリシン由来のイソシアニドモノマーを重合して得られる生成物が、「重合度30程度のポリイソシアニドが末端間で非共有結合的に連結した一次元超分子集積体」であることを明らかにした。 2. 超分子ポリマーの安定性は溶媒の極性に大きく依存しており、低極性のクロロホルム中では、ほとんど脱会合が進行しないのに対して、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒中では、サイズ排除クロマトグラフィーによって見積もられる相対分子量が徐々に小さくなることを明らかにした。以上の結果は、超分子の形成には、アミド基間の分子間水素結合が重要な役割を果たしていることを示唆している。全原子分子動力学シミュレーションからも、水素結合が超分子形成の主な駆動力であることを示唆する結果も得られている。 3. 高速原子間力顕微鏡観察によって、1次元超分子ポリマーが脱会合する様子を直接観察することに成功した。 4. 不斉源として1 mol%の光学活性モノマーを添加した重合系により、一方向巻きに片寄ったラセン高分子の一次元超分子集積体を容易に合成することができ、側鎖に蛍光発光性ユニットを導入した場合には、生成する超分子ポリマーが、非対称性因子(glum)として0.02程度の良好な円偏光発光(CPL)性を示すことを明らかにした。 5. 上述の光学活性な超分子ポリマーにアキラルな蛍光発光性を有する低分子を添加した場合、アキラル分子の蛍光発光領域に明確な誘起CPLが発現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画にのっとり、光学活性及びアキラルなイソシアニドモノマーの共重合系で発現する高度な不斉増幅現象を利用して高性能なCPL材料の開発に成功した。さらに、グリシン由来のイソシアニドモノマーの単独重合系において、「イソシアニドモノマーの重合」と「それにより生成するポリイソシアニドを構成単位とする一次元超分子集合体形成」が同時に起こるという予想外の結果にも遭遇した。類似構造の光学活性モノマーを20 mol%程度含む共重合でも同様な超分子ポリマーが得られ、それらのキロプティカル特性解析、原子間力顕微鏡観察、全原子分子動力学シミュレーション結果に基づき、超分子形成の過程も解明できつつある。以上のように交付申請書に記載の研究計画のほとんどの実験を遂行し、目的の多くを達成することができたことから、研究はおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた知見をもとに、“アミノ酸由来イソシアニドモノマーを重合する際に発現する高度な不斉増幅現象”を積極的に活用し、ポリイソシアニドベースの次世代型高性能キラルマテリアルを創製することを目指し、以下に示す研究を推進する。 1. 前年度に引き続き、実験および計算の両面からラセン高分子・超分子集積体の構造解析を進めるとともに、より不斉増幅能が高く、効率的にラセンの巻き方向を制御できるシステムを開拓する。 2. 未だ解明できていない「ニッケル触媒を用いたイソシアニドの重合反応により、ポリイソシアニドを構成単位とする一次元超分子集合体が1ステップで形成されるメカニズム」を解明する。 3. ポリイソシアニドの剛直な主鎖骨格に由来して発現する液晶性を利用して、「ラセン高分子からなる一次元超分子集積体」をさらに規則配列することで、キラル機能(不斉識別能、CPL性能)の向上を目指す。 4. 極微量の不斉源(0.1 mol%以下)を利用したキラル固定相、CPL材料の開発に挑戦する。 前年度に得た研究成果に磨きをかけるとともに複数の論文にまとめ、国際誌に投稿する。
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