研究課題/領域番号 |
17K05878
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
猪股 克弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80232578)
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研究分担者 |
信川 省吾 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50609211)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 形状記憶高分子 / ハイドロゲル / エラスチン / 生体由来物質 / 相互侵入高分子網目 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体内で弾性的性質を担うタンパク質であるエラスチンを用いて、新規な形状記憶高分子材料を開発することを目的としている。形状記憶高分子における形状記憶能の発現には、形状回復成分(弾性成分)と形状固定成分(転移成分)の両者が必要である。平成29年には、前者としてエラスチンを、後者として、室温以上にガラス転移温度を有するアクリルポリマーを選択し、両者を複合化することで形状記憶高分子を調製した。 生体由来のエラスチンは、線状タンパク質であるトロポエラスチンが分子間架橋されている。これまで用いてきた市販の水溶性エラスチンは、生体由来エラスチンの架橋を切断し溶媒に可溶なトロポエラスチンの状態のものである。そのような処理を行うため、水溶性エラスチンは一般に高価であるが、架橋エラスチンのままでは上述のアクリルポリマーとの複合化は困難である。しかし、エラスチンに弾性成分としての役割を担わせるのであれば、架橋されたままのエラスチンをそのまま用いればよく、高価な水溶性エラスチンを使用する必要はない。 そこで平成30年度は、アクリルモノマーならびに微量の架橋剤と開始剤を含む溶液中に架橋エラスチンを膨潤させ、モノマーをエラスチンネットワーク中に含浸させたのちに重合反応を行うことで、エラスチンとアクリルポリマーのネットワークとが相互に侵入し合った網目構造(IPN構造)を有するハイドロゲルを調製した。水中で膨潤させたハイドロゲル試料の動的粘弾性測定を行ったところ、室温付近に損失正接の極大を示した。そこで、50℃→0℃→80℃のサイクルで形状記憶試験を行ったところ、形状固定率75%、形状回復率79%という値を得た。昨年度調製した試料よりも形状記憶能が劣っていたが、その理由として、回復を担うエラスチンは系全体に渡った網目構造を形成している訳では無いことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、トロポエラスチンの側鎖に重合性官能基を導入し、メタクリル酸メチルとともに共重合することで、エラスチン/ポリメタクリル酸メチル複合化ハイドロゲルを調製した。さらに、この試料が生体温度近傍で形状記憶能を示すことを明らかにした。 平成30年度には、生体から得られるエラスチンを架橋状態のままでアクリルポリマーとIPN化させることで、より簡便な手法で得られる安価な形状記憶ハイドロゲルの調製を試みた。用いたエラスチンは、特別な化学処理は行っておらず、生体由来の状態の試料をそのまま使用しているため、原料のコストが抑えられ、かつ、より生体適合性には優れることが考えられる。形状記憶高分子としての性能は若干劣るものの、調製条件の最適化でより高性能な試料が得られると考えている。 このように、本研究が目的とする、生体内で弾性的性質を担うタンパク質であるエラスチンを用いた新規な形状記憶高分子材料の開発に関しては、計画通り進捗させることができたと考えている。一方、得られた試料の細胞毒性試験に関しては、試料調製に時間が掛かり、実験に着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、さらにエラスチン含有形状記憶ハイドロゲルの可能性を探るため、これまでとは異なるメカニズムで形状記憶特性を示す試料の調製を試みる。具体的には、結晶性を示すような長鎖アルキル基をエラスチン側鎖に導入することで、温度変化により結晶-融解の相転移を示す側鎖アルキル鎖を含有する試料を調製する。結晶-融解の転移は、ガラス転移とは異なり、より狭い温度範囲で弾性率の変化を示す。これまでの研究で取り上げてきた試料はすべて、温度上昇とともに徐々に貯蔵弾性率が低下するような動的粘弾性挙動を示したが、結晶性成分の結晶融解では、よりドラスティックな弾性率変化が予想され、それにともなう狭い温度範囲での形状回復挙動が見られることを期待する。 さらに、これまで調製してきた一連の試料の細胞毒性試験を行い、エラスチン含有形状記憶ハイドロゲルの示す生体適合性について評価し、試料の調製手法と生体適合性との関係について明らかにする予定である。
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