研究課題/領域番号 |
17K05879
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 将人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20179253)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チオエステル / 開環重合 / アニオン重合 / 有機触媒 / チオラクチド / アクリル酸チオエステル / メタクリル酸チオエステル / チオール |
研究実績の概要 |
チオグリコリド(1)とチオラクチド(2)のDBU(触媒)を用いたアニオン重合は、ともに平衡重合性を示すことが判った。例えば、2-Ethylhexyl thioglycolate(開始剤)を用い、室温、バルク条件下で2の重合を行ったところ、開始剤量を減少させるにつれてモノマー転化率の変化はないもののポリマーの分子量が増大した。反応系にモノマーを追加しても同様の現象が観察された。また、反応系を60℃に加熱、または、溶媒を加えることで、モノマー転化率とポリマーの分子量が減少した。1と2の共重合を行うと、それぞれの単独重合と比較してモノマー転化率が上昇した。開始剤量の減少によって、共重合体の収率と分子量が増加し、モノマーの仕込み比によって、共重合体中の組成比の調整が可能であることを確認した。 ホスフィン類を開始剤として(メタ)アクリル酸チオエステルがアニオン重合した。例えば、n-Bu3P(2 mol%)を加え、S-(4-t-Butylphenyl)methyl thioacrylateをTHF中で重合させると、転化率は2分で50%を超え、その後は時間とともに増加するのに対し、分子量は一定の値(Mn=2500)をとった。開始末端のホスフィンが脱離し、それが重合を再開始する反応が繰り返し起きていると考えられる。アルコールなどのプロトン性溶媒を重合系中に添加すると、転化率が20%程度で停止するが、溶媒を留去することで高分子量ポリマー(Mn=16100)が生成する特異な現象が見られた。ホスホニウムイオンが高分子鎖末端に存在する状態で停止していた反応が、溶媒を留去して極性が変化することでホスフィンの脱離と重合の再開始が起こり、同時に、急激なモノマー濃度の上昇に伴い、成長反応が急速に進行して高分子量のポリマーが得られたと考えられる。メタクリル酸チオエステルについても同類の現象が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主鎖にチオエステルを持ったポリチオエステルを与える環状チオエステルの開環重合については、チオラクチドの新たな重合反応挙動が明らかとなり、順調に進んでいる。 側鎖にチオエステルを持ったポリマーを与える、メタクリル酸やアクリル酸チオエステルの重合のついては、新たな開始剤や特異な重合挙動が明らかになっているが、未だ、リビング重合を達成できていない。また、側鎖のチオエステル基の高い反応性を使った高分子反応についても、新たな知見が得られつつあるが、進捗が予定よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 光学活性なチオラクチドを合成し、鏡像異性体から得たポリマーがラクチドと同様にステレオコンプレックスを形成するかどうか確かめる。また、ラセミ体と異なる重合性を示すと予想されるメソ体のチオラクチドについても合成してその重合性を検証する。 2)ラクチドと性質の違いを明らかにするために、ポリチオラクチドの加水分解性と光分解性を検討する。ラクチドに比べてアルカリ性での加水分解性が高く、酸性での分解性が低いと予想される。また、チオエステルの紫外線吸収能から、ポリチオラクチドがより高い光分解性を示すと予想される。 3)アクリル酸およびメタクリル酸チオエステルのアニオン重合の制御達成を目指す。開始剤としては、塩基性が低いホスフィン類が適当と思われ、ホスホニウム塩を加えることで末端アニオンとホスホニウムとの間で可逆的な共有結合を形成させて制御に導くことを考えている。 4)水溶性ポリアクリル酸チオエステルとシステイン末端を持ったポリマー間の水中での反応(ケミカルライゲーション反応の応用)と得られた側鎖のチオール基へ反応(チオール-エンクリック反応)による、特異なグラフトポリマー、ポリマーブラシの合成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請額よりも交付決定額が少なかった関係で備品を購入しなかったため、次年度使用額が生じた。 今年度は、他予算の状況を見ながら、予定していた備品の購入を検討する。
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備考 |
名古屋工業大学大学院生命・応用化学専攻有機高分子合成研究室 http://polysyn.web.nitech.ac.jp/
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