研究課題/領域番号 |
17K05881
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井田 大地 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80610518)
|
研究分担者 |
吉崎 武尚 京都大学, 工学研究科, 教授 (90230705)
中村 洋 京都大学, 工学研究科, 教授 (90243162)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ポリビニルアルコール / けん化度 / ポリ酢酸ビニル / 静的光散乱 |
研究実績の概要 |
現在,実施計画にある一連の実験的研究に用いる,けん化度がほぼ100%である分枝を持たない線状ポリビニルアルコール(PVA)試料およびけん化度84%の試料(ビニルアルコールと酢酸ビニル共重合体PVAVAc)を調製し,それらの有機溶媒溶液と水溶液の静的光散乱(SLS)測定を終えている. PVAVAc試料はDENKA(株)から提供を受けた原試料を分別精製することにより調製した.PVA試料は,乳化ラジカル重合により得たポリ酢酸ビニル(PVAc)試料を,けん化,再アセチル化,分別精製,再けん化の順で処理して得た.このようなPVA試料の調製段階においてけん化・再アセチル化前後のPVAcのメタノール溶液に対するSLS測定により,従来半経験的に認識されていたけん化にともなうPVAcの長鎖分枝の切断が直接的に示された. 得られたPVAおよびPVAc試料の各水溶液についてSLS測定を行った.PVA水溶液については,測定溶液を120℃に加熱した後速やかに測定を行えば,常温付近でも通常のSLS測定が可能であることを示した.また,常温付近では水溶液中のPVAは良溶媒中の屈曲性高分子に典型的な挙動を示すことを明らかにした.PVAVAcについては,常温水溶液中において,PVAと同様に,良溶媒中の屈曲性高分子に典型的な挙動を示すが,PVAに比べ主鎖が曲がり難くなることを示した.同時に,PVAVAcに関しては,水溶液中の分子間相互作用が特異的であることも明らかにし,今後の研究を進める上で,水中における非イオン性水溶性高分子の分子間相互作用に関する理論的研究を行う必要性が示された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PVAVAc水溶液のSLS測定から,水中におけるPVAVAc分子間の相互作用が特異的であることが明らかになり,次段階の実験的研究を進めるにあたり,分子間相互作用に関するさらなる検討が必要となった.そのため,当初計画にある粘度,動的光散乱測定,および相挙動検討に関しては未だ実施できていないが,測定試料の調製と特性解析は完了しているので,研究全体としての進捗はおおむね良好である.
|
今後の研究の推進方策 |
水中のPVAVAc分子間相互作用に特異的挙動が認められたため,全原子モデルを用いた分子動力学シミュレーションを前倒して行い,先ず分子間相互作用に関する理論的知見を得る.その上で,当初計画にある粘度,動的光散乱測定,相挙動の検討を行う. 水中におけるPVAVAcの分子間相互作用に関する検討においては,比較のため,PVAあるいはPVAVAcと同様に非イオン性水溶性高分子であり,それらに比べ単純な繰返し単位化学構造を持つポリエチレングリコールの水溶液に関するシミュレーションを先立って行い,非イオン性水溶性高分子の溶液物性研究に対する分子動力学法の適用妥当性の検討を行う.
|