研究課題/領域番号 |
17K05886
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中村 光伸 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (50285342)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鋳型重合 / DNA / 分子集積体 |
研究実績の概要 |
鋳型重合は希薄溶液での重合と立体規則性の制御が可能であるが、従来の鋳型重合では分子量の制御された鋳型材料の合成が容易ではない。申請者はこれまで、人工DNA を鋳型材料にしてDNA塩基受容体(レセプター)を修飾した分子を自己組織化により集積させて、ナノサイズの分子集積体の構築に成功した。本研究ではこの手法により重合性モノマーの集積体を構築して、光鋳型重合を達成し、生成物の分子量と立体規則性の制御を目指す。光エネルギーを利用すれば低温で重合できるため、集積体構造が攪乱されることなく立体規則性を保持した生成物が期待できる。 29年度は光重合性を有する1,3-ジフェニルブタジインにDNA塩基受容体である環状ポリアミン亜鉛錯体を化学修飾した受容体修飾モノマーを合成した。合成した受容体修飾モノマーがチミンのみからなるDNAと自己組織化が可能であるかを判断するために受容体部位とDNA塩基(チミン)との会合を紫外・可視(UV-vis)吸収法によりモノマーの溶液にチミジンモノリン酸を滴下して評価した。その結果、受容体部位とDNA塩基との会合定数は104であることを明らかにした。またチミンのみからなるオリゴDNAとの会合を評価したところ、DNA塩基と受容体が1:1の化学量論で結合した均一なモノマー集積体が形成されることがゲルろ過クロマトグラフィー分析により示唆された。この集積体の円二色性(CD)スペクトルではモノマーの吸収帯領域に誘起CDシグナルが観察されたことから、モノマーは鋳型であるDNAに沿って、らせん状に集積していることが明らかになった。形成した集積体に光照射を行ったところ光反応によるモノマーの減少が確認され、一方、DNAを加えずに集積させていない状態では光照射を行ってもモノマーは減少しないことからDNAによって集積することにより重合が起こっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度の計画では光重合生成物の同定と物性評価を終える予定であったが、分析条件の最適化に時間を要したことから、生成物の同定まで至っていない。現在、分析条件の最適化を終え、光重合生成物の単離精製を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
光照射生成物の物性評価:光ラジカル発生剤共存下あるいは直接モノマー集積体へ光照射しモノマーの重合反応を行う。光ラジカル発生剤にはアセトフェノンやベンゾフェノン誘導体を用いる(26)。鋳型DNAから生成物の切り離しと精製を行ったのちNMR、質量分析、UV-vis吸収、円二色性等により分子量、立体規則性を一本鎖および二本鎖で構築した系それぞれで評価する。それぞれの系で分子量、立体規則性を制御するための反応温度、照射光波長などの条件を解明し、制御方法を確立する。制御できる条件で重合反応の量子効率、モノマーの転化率、生成物の収率を明らかにする。一方で、鋳型DNAを用いず集積化されていない状態で同様の反応を行い、生成物の分子量、立体規則性が制御されていないことを明らかにする。 光電子移動型重合開始剤の選択:光電子移動型重合開始剤としてモノマーに対して電子受容体あるいは電子供与体となり得る芳香族分子を設計・合成する。芳香族分子の設計は分子軌道計算によりモノマー、DNA塩基および芳香族分子のHOMO、LUMOのエネルギー準位を比較して行う。芳香族分子蛍光のモノマーおよびDNA塩基による消光実験により芳香族分子とモノマー間で光電子移動が起こり、芳香族分子とDNA塩基間では電子移動が起こらないことを確認する。さらにモノマー存在下で芳香族分子に光照射し、生成したモノマーイオンが重合反応を起こすことを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度の計画では光重合生成物の同定と物性評価を終える予定であったが、分析条件の最適化に時間を要したことから、生成物の同定まで至っていない。そのため研究計画にやや遅れが生じていることから、次年度使用額が発生した。今年度この次年度使用額を遅れている分の研究に充てる。
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