研究課題/領域番号 |
17K05887
|
研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
小林 元康 工学院大学, 先進工学部, 教授 (50323176)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | エラストマー / ポリマーブラシ / アニオン重合 / ポリイソプレン / ポリジメチルシロキサン / 表面改質 / 表面開始重合 / 表面グラフト |
研究実績の概要 |
基板表面に固定化した開始剤を起点として表面開始重合を行うことで、多様なポリマーを表面にグラフトする手法は有効な表面改質法として古くから研究されてきた。しかし、ポリイソプレンやポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなエラストマーをグラフトするには技術的に困難を伴う表面開始アニオン重合を必要とするため、これまでの先行研究は極わずかしか存在していない。本研究ではこれを実現するために適切な表面開始剤を合成し、イソプレン(Isp)及びヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)の表面開始アニオン重合を試みた。活性シリル基を有するヨウ化アルキルやベンジルブロミド、ジフェニルエチレン誘導体を合成し、それぞれをシランカップリング反応によりシリコン基板に固定化した後、リチウム-ハロゲン交換反応により表面開始剤に変換した。一般的な溶液重合において、ベンジルアニオンよりもアルキルリチウムの方が反応性が高く、IspやD3の開始反応効率も高いことが知られている。しかし、本研究で実施した表面開始アニオン重合においてはアルキルリチウム型表面開始剤からは膜厚3 nm以下のポリマーブラシしか生成せず、ベンジルアニオンやジフェニルメチルアニオン型の表面開始剤固定化基板から膜厚10 nm以上のポリマーブラシが生成しやすいことが明らかとなった。特に、求核性が乏しいとされているジフェニルメチル型アニオン開始剤からD3の表面開始アニオン重合が進行し、膜厚14 nmのPDMSブラシが得られた。これらの実験結果から表面開始アニオン重合においては表面開始剤の求核性の高さだけでなく、活性カルバニオンの安定性が重要であり、開始反応効率が低くても比較的高密度ブラシが生成できることが初めて明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の研究にて、表面開始アニオン重合においては表面開始剤の求核性の高さだけでなく、活性カルバニオンの安定性が重要であり、開始反応効率が低くても比較的高密度ブラシが生成できることが明らかになった。これは一般的な溶液中でのアニオン重合とは大きく異なる現象であり、当初想定していなかった事態である。これをふまえ、今後の研究計画を修正する必要があるが、大幅な変更は不要であり、予定通り目標を達成できると見込まれる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最大の目標は十分な膜厚を有する表面グラフト化エラストマーを表面アニオン重合法により合成する点にある。当初、非常に反応性の高い表面開始剤が必要になると想定していたが、反応性が低くても安定な適していることが明らかになりつつある。そこで、今後の研究ではジフェニルメチルアニオンのような比較的安定なカルバニオンが生成するような表面開始剤の合成に注力し、表面開始アニオン重合に適用する方針で研究を展開する予定である。
|