研究課題/領域番号 |
17K05890
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
東村 秀之 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00562224)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 芳香族ポリエーテル / フェノール類 / 酸化重合 / 酵素モデル |
研究実績の概要 |
芳香族ポリエーテルは高耐熱性と低誘電性を併せ持ち、スマートフォンやIoTなどの高速通信用電子部品材料等として開発されている。その合成法としてはフェノール類の酸化重合法が最も低負荷・低コストであるが、従来触媒ではフリーなフェノキシラジカルを生じるため、2つのオルト位に置換基をもつフェノール類しかモノマーに適用できなかった。 本研究者は、生体酵素がフリーラジカルを生じない機能があることに着目し、酵素モデル酸化重合触媒を見出している。該触媒はフェノキシラジカルを捕捉し、触媒の置換基によりカップリング選択性を制御でき、「ラジカル制御酸化重合」と命名した。この新重合法により、オルト位に置換基のないフェノールモノマーから、構造制御された結晶性ポリエーテルを、世界で初めて合成することに成功している。 本研究では、ラジカル制御酸化重合の基盤技術を確立し、嵩高い置換基をもつフェノールモノマーにスコープを拡大し、高性能な非晶性ポリエーテルを合成することを目指している。平成29年度は、嵩高い置換基をもつモノマーとして2-フェニルフェノールを選択し、(i)酵素モデル触媒によるラジカル制御酸化重合の適用と、(ii)計算機化学を利用した該触媒の置換基の設計を行った。 これらの検討の結果、(i)2-フェニルフェノールの酸化重合で得られたポリマーについて、従来触媒では不純構造を生じて熱安定性が低くなったが、酵素モデル触媒では構造が制御されて高い熱安定性を示すことが判明した。また、(ii)2-フェニルフェノールに対して、酵素モデル触媒の置換基を計算機化学で設計したところ、活性を保持したまま選択性をさらに向上できるものを数点見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は、ラジカル制御酸化重合の基盤技術の確立として、フェノールモノマーの置換基に対する酵素モデル触媒の置換基の設計指針を得ることが目標であった。当年度は研究室の立ち上げと重なったため、嵩高い置換基をもつフェノールモノマーとして有望な2-フェニルフェノールに絞って本検討を行った。 その結果、(1)嵩高い置換基をもつ2-フェニルフェノールでも、酵素モデル触媒を用いたラジカル制御酸化重合の優位性が確認でき、(2)2-フェニルフェノールに対して、酵素モデル触媒の置換基を計算機化学で設計することができた。 これらの知見から、嵩高い置換基を持つフェノールモノマーに対してもラジカル制御酸化重合の基盤技術を構築でき、当年度の目標をほぼ達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、2-フェニルフェノールのラジカル酸化重合について、酵素モデル触媒および重合反応条件の検討を行う。他のフェノール類についても、計算機により酵素モデル触媒を設計しながら、ラジカル制御酸化重合の優位性を実証する。 H31年度は、得られたポリエーテルについて分子量、構造分析、熱安定性を評価するとともに、良さそうなものについては誘電率を外注で測定する。実用化への課題を抽出し、最も有望な材料を絞り込む。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は当研究室の立ち上げと重なり、嵩高い置換基をもつ2-フェニルフェノールにモノマーを絞って、ラジカル制御酸化重合を検討したため、計画より使用額が少なくなった。しかしH30年度は、他フェノール類に拡張したり、新しい触媒を合成するために、計画より使用額が増える予定である。
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