研究実績の概要 |
芳香族ポリエーテルは高耐熱性と低誘電性を併せ持ち、高速通信用電子部品材料として注目されている。その合成法としてはフェノール類の酸化重合が最も低負荷・低コストであり、当方では人工酵素触媒を用いるラジカル制御酸化重合法を見出している。該触媒はフェノキシラジカル中間体を捕捉し、カップリング選択性を制御できるので、両オルト位に置換基のないフェノールからでもパラ結合のポリエーテルを合成できる。 本研究では、本法を用いて嵩高い置換基をもつフェノールから高性能なポリエーテルを合成することが目的である。H29年度は、まず熱に安定で嵩高い基をもつ2-フェニルフェノールを選択し、そのラジカル制御重合を行ったところ、熱安定性に優れたポリエーテルを得ることができた。ただし、数平均分子量(Mn)は5千程度で、高分子量化が必要であった。 H30年度は、まずフェニルフェノール類の置換位置を検討した結果、パラ位置換体からは分子量が伸びず、メタ位置換体は熱安定性が低くなり、置換位置はオルト位が良いことが分かった。また、2-フェニルフェノールから得られるポリエーテルを再沈殿して低分子成分を除去すると、Mnを大幅に向上できる目途を得た。さらに、フェニル基以外の置換基を計算機化学により設計し、より嵩高い置換基をもつフェノール2種を合成した(R1年度以降、これらの重合検討を継続中である)。 R1年度は、2-フェニルフェノールの酸化重合条件と再沈殿条件を詳細に検討した。その結果、得られたポリエーテルのMnを65,000まで高分子量化させ、10%加熱減量温度(Td10)を524℃まで向上させることに成功した。本ポリエーテルは、既存のポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキサイド)(Td10=440℃)より熱安定性がはるかに高いことが判明した。今後は本ポリエーテルの低誘電性や機械強度を確認し、実用性を実証していく予定である。
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