研究課題/領域番号 |
17K05891
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
小泉 俊雄 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 教授 (60225349)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 交差共役化合物 / アレン / クロスカップリング反応 / パラジウム触媒 / 高分子反応 / 選択的合成 |
研究実績の概要 |
まず、アレン骨格を有する交差共役系高分子の合成について検討を行った。低分子のアレン誘導体は置換基の種類等によって安定性が大きく変わる。また、アレン骨格自体はパラジウム触媒に対して活性であるため、パラジウム触媒重合によってプロパルギル炭酸エステルから目的とするアレン含有高分子が合成できるのかどうか不透明な部分があった。モデル反応を実施した結果、プロパルギル位に置換基をもたないプロパルギルビスカーボナートを基質として用いると、目的物のアレン体以外に異性体であるプロパルギル体が30%程度副生することがわかった。そこで、プロパルギル位にメチル基を導入したところ、アレンのみが生成することわかった。この結果を基にモデル反応と同じ条件で重合を行ったところ、ある重合時間以上になると系中で不溶分が析出した。重合後期でアレン骨格がパラジウム触媒と反応し架橋したと想定し、重合時間を大幅に短縮したところ、目的の高分子の生成を確認することができた。しかし、貧溶媒を利用した再沈殿により単離を試みたところ、固体状の生成物を得たが、一旦固体状態になると不溶化し、いかなる溶媒にも溶けなくなることがわかった。そこで、単離操作を経ないで高分子反応へ適用することにした。重合後に触媒等を除く操作をした後、アレン骨格に対してヨードベンゼンとのパラジウム触媒反応を行ったところ、1,3-ジエン骨格への変換することができた。 上述したモデル反応を用いた条件検討の過程で興味深い現象を見出した。プロパルギル炭酸エステルと芳香族ボロン酸とのパラジウム触媒反応は、通常アレン体が優先して生成する。しかし、条件を工夫することによって、ほぼプロパルギル体のみが生成することがわかった。反応条件を変えるだけでアレン生成物とプロパルギル生成物を選択的に合成できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度の実施計画では、1,3-ブタジエン([2]デンドラレン)骨格への1,4-付加反応を適用した共役系高分子への変換が含まれていた。しかし、研究実績の概要で述べたように、アレン生成物とプロパルギル生成物を選択的合成の可能性が判明したため、合成的に重要と思われるこちらの検討を優先した。 上述したように、アレン骨格をもつ交差共役系高分子の合成に成功し、さらにその高分子反応による1,3-ブタジエン骨格への変換も達成できた。パラジウム触媒存在下でアレン骨格をもつ高分子の合成は、当初からある程度の困難を予想していたが、やや想定を超えていた。そのため、生成した高分子の単離操作や高分子反応への展開に時間を要してしまった。しかし、目的高分子の構造を確認することができ、さらにアレン骨格を保持したまま次の高分子反応へ適用することができた。従って、当初の研究目的は概ね達成されたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
31年度は、30年度に十分に実施できなかったエキソメチレン型のアレン骨格を有する交差共役型高分子の合成とその高分子反応、並びに物性について検討する。プロパルギルビスカーボナートと芳香族ジボロン酸との重合によってアレン含有交差共役系高分子を得ることには成功した。しかし、用いた両モノマーの芳香族部位はフェニレンとフルオレンのみであった。芳香族部位を変えることによって重合性や生成する高分子の安定性が影響を受けることは十分に考えられる。アレン含有交差共役系高分子は本質的に単離できないのか、芳香族部位を変えたり置換基を導入することによって単離できるのか、などの点を含めて詳細に検討する予定である。パラジウム触媒に対して活性であるアレンを含む交差共役系高分子の生成条件や安定性並びに反応性についての系統的な情報が得られればと考えている。さらに、アレン部位に対する他の反応の適用可能性についても検討する。有機合成の分野では、アレンは多様な反応に適用できることがわかっている。そこで、架橋等の副反応を併発せずに進行する高分子反応を明らかにする予定である。 意外ではあったが、プロパルギルカーボナートと芳香族ボロン酸との反応で反応条件を変えるだけでアレン体とプロパルギル体を選択的に合成できることが予備的な実験で明らかとなった。この知見は有機合成的に重要であると考えられる。アレン類とプロパルギル類はともにビルディングブロックとして有用である。プロパルギルカーボナートと芳香族ボロン酸の組み合わせで多彩なアレン類とプロパルギル類の合成への道が開ける可能性がある。予定外ではあるが重要な課題であるので、この点についても詳細に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は、物品購入等の要求総額(見積もり総額)に比べて実際の購入総額(入札後の金額)が安くなったためである。約7万円が繰越金として残った。残額として約7万円が生じたが、31年度は最終年度であるので、不足気味のガラス器具および試薬を中心とした消耗品に充てる予定である。また、執行状況をみながら専門書の購入や論文校閲などに充てることも考えている。また、31年度は海外出張および地方での国内学会の予定が多く入っており、それらの出張旅費に充当にする。
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