研究課題/領域番号 |
17K05901
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
諏訪 雅頼 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90403097)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パルス磁場 / 減衰振動 / 磁性ナノ粒子 / 光学異方性 / ブラウン回転 / 高感度検出 / ファラデー回転 |
研究実績の概要 |
1.減衰振動磁場とロックインアンプ(LA)を用いた高感度ファラデー回転測定を試みた。減衰振動磁場はLCR回路の自由放電によって発生させることができ、スイッチ素子として用いた絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を保護するスナバ回路のコンデンサによりその周波数を変えられる。電流波形から振動の周波数を測定し,これをLAの内部参照信号の周波数として用いた。LAの参照信号をマスタークロックとして、磁場の発生とLAの信号取得を同期させた。減衰振動磁場の時定数は300 us程度であるため、速いサンプリングが可能なSR860を購入し、使用した。水のファラデー回転を測定したところ、オシロスコープでの測定と比較して、S/N比が100倍以上向上した。
2.減衰振動磁場中での磁性ナノ粒子(MNP)のブラウン回転挙動を光により観測できた。三酸化二鉄のナノ粒子を合成し、その分散液の吸光度変化を減衰振動磁場中においてファラデー配置(磁場//光)で測定した。吸光度は磁場の印加とともに減少し、また磁場の2倍の周波数で増減した。MNPには、磁化容易軸と平行な光軸があることが報告されており、即ち磁場中での光軸の回転挙動が観測されたことが示唆された。吸光度変化から光軸の配向度を求めることができ、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式とLangevin方程式を用いた磁化容易軸の配向シミュレーションの結果とよく一致した。交流磁場中でのMNPの磁化挙動を利用する磁気温熱治療や磁気ナノ粒子イメージングでは、その効率にブラウン運動が影響することが幾つかの理論計算から示唆されている。しかし、ブラウン回転のみを選択的に観測する方法はないため、本方法はこれらの技術の最適化したMNPを選定するのに有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
減衰振動磁場とロックインアンプを利用した高感度・高精度磁気光学効果測定の基礎を構築できた。また、これまで報告例の無い磁性ナノ粒子のブラウン回転の直接観察が可能であることを明らかにしたことから、当初の計画以上の成果が上がっていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.ファラデー回転の顕微測定を行う際に問題となることは、透明な溶媒やセルでもファラデー回転が生じてしまう事である。本年度は、微小試料を透過する光と周りの媒体のみを透過する光のFR角の差を差分増幅検出器で測定し、LAで高感度検出することを試みる。可視光用差分増幅検出器の出力ノイズ及びSR860のダイナミックリザーブを考えると10 udegの精度でファラデー回転角の測定が可能と予想している。水中に分散したポリスチレン球など,FR角が容易に見積もられる試料を幾つか選び、最終的に得られるシグナルの解析法を確立する。 2.MNPのブラウン回転測定においてもLAによる高感度化を試みる。前述の通り、磁場の周波数の2倍で吸光度が増減する事が分かっているので、これをロックイン検出する。また、オシロスコープで波形を詳細に観察するとサイン波から大きく歪んでいることが分かっているので、高調波成分をより詳細に調べる。また現在はファラデー配置であるが、フォークト配置(磁場⊥光)も試み、直線二色性だけでなく、直線複屈折での測定も行う予定である。さらに、粘度やマグヘマイト以外のMNPの測定も行い、微小領域における粘度測定法としての可能性を考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、スタンフォードリサーチ社のロックインアンプSR865Aを購入予定であったが、デモ機を使用して検討した結果、下位機種であるSR860を用いても計画を追行できることが判明した。これにより、支出を抑えることができ、繰り越しが生じた。 2018年度より、FePtナノ粒子をはじめとする様々な磁気ナノ粒子を合成するため、高価な試薬を購入する予定である。
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