前年度までに、減衰振動磁場の印加により磁気ナノ粒子(MNP)分散液内に直線二色性が誘起(MLD)されることと、その時間変化からMNP自体の回転運動を観測できることが分かった。本年度はMNPの力学プローブとしての利用を試みた。具体的には、高分子溶液内及び、リポソーム内水相におけるMNPの回転挙動を観測し、新規な局所粘性測定としての可能性を見出した。 1.巨視的には理想的な粘弾性を示す疎水性エトキシ化ウレタン(HEUR)水溶液内におけるマグへマイトMNPの回転運動を調査した。MNPをHEUR水溶液に分散し、MLDを測定した。ゲル化濃度(~0.8 wt%)以上の試料についてマクロな粘性率は50 Pa s~500 Pa sと高粘度であった。一方MLDの波形は、1.5 wt%以下で水中(~1 mPa s)とほぼ同様で、更にHEUR濃度を上げると急激にMLDが小さくなった。マクロな弾性率から見積もったゲル架橋点間の平均距離はHEUR濃度とともに減少し、2.0 wt%でMNP径と同程度であった。即ちMLDの急激な減少は、架橋分子によるMNP回転運動の阻害を示唆し、高分子溶液のスケール依存粘性測定法として期待できる。 2.MNPを内水相に内包したDPPCリポソームをバンガム法で調製しエクストルーダーで粒径を調整した。単純なMNP分散溶液と異なり、磁場に対して遅いMLDの変化が観測された。また、磁場と同期した小さい振動も観測された。遅い変化の時間スケールはリポソームの回転緩和時間と同程度であり、外水相の粘度とともに増大した。一方、小さい振動は外水相の粘度に依存しなかった。このことから前者はMNPが吸着したリポソームの運動を、後者は内水相でのMNPの運動を反映することが示唆された。さらにMLD変化の周波数解析から、内水相の粘度測定を試みたところ、約3 mPa sと水中に比べ大きいことが分かった。
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