研究実績の概要 |
前年度に引き続き,まず,本研究課題の理論的基盤となる「非ボルン型溶媒和モデル」について基礎的ならびに応用的展開を図った。福井県立大の片野肇教授らとの共同研究として,フルオラス溶媒/水界面でのフッ素化イオンの選択的なイオン移動現象を,非ボルン型の理論解析によって明確に説明できることが分かった。また,フルオラス溶媒と1,2-ジクロロエタンの混合溶媒が,フッ素化イオンの抽出溶媒として有用であるという分析化学的知見も得られた。一方,薬学的応用として,薬剤の生体膜透過の予測に非ボルン型溶媒和モデルが有効であることを確認した。 本年度は,上述の研究成果を基礎にして,前年度までに開発した油水界面での中性分子(アルキルアルコール)の吸着挙動の非ボルン型溶媒和モデルによる理論的解析法を,イオン性の分子に拡張した。イオン性の分子の場合,その正味の電荷が油水界面の両側に形成される電気二重層の電位分布の影響を受ける。本研究では,界面の両側にグイ・チャップマンの拡散層を仮定し,イオン電荷による静電的エネルギーを加味して吸着エネルギーの理論的見積もりを行った。モデル計算として,文献に実験データの報告があるヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン(HTMA+)のニトロベンゼン/水界面での吸着挙動を取り上げた。界面近傍でのHTMA+のギブズエネルギー変化を様々な界面電位差について計算したところ,界面電位が正の場合にエネルギーの極小値がなく,界面に吸着しないことが示唆された。一方,界面電位が負の場合にはエネルギーの極小値が現れ,HTMA+が界面に吸着することが示された。この結果は文献の実験データと良く一致しており,非ボルン型溶媒和モデルによる本解析法が油水界面吸着の理論的予測に有用であることが結論された。
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