研究課題/領域番号 |
17K05905
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大平 慎一 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (60547826)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光学分割 / 電気透析 / ポストカラム |
研究実績の概要 |
生体内において,光学異性体は区別して認識されている。例えば,地球上の生体を構成するたんぱく質はL-アミノ酸のみからなっている。一方,1986年に生体内 にL体のわずか数%ではあるがD-アミノ酸の存在が発見され,このD体が様々な生理作用を担っていることがわかってきた。また,サリドマイド事件は,光学異性体の一方が薬理効果,他方が毒性を示すことが原因であり,グルタミン酸における味の違い,リモネンにおける香りの違いなど光学異性体により生体反応は大きく異なっている。そのため,医薬品や食品などの産業において光学分割や光学異性体ごとの定量は重要な課題の1つである。最近では,D-アミノ酸のいくつかが慢性腎臓病のバイオマーカーであることが報告され,代謝物中の光学異性体分析による医療診断の可能性も示されている。本研究では,電気透析に基づく溶存イオン抽出デバイスにより,光学異性体を分離する方法を開発している。従来の分析法では,光学異性体ごとの濃度を測定するためには,まず,物質ごとに分離し,得られた各物質のフラクションを光学異性体の分離系へと導入して,分離・検出する必要があった。本研究によると,物質ごとに分離した後,電気透析デバイスによって光学異性体ごとに分離するため,一般的なクロマトグラフィーによる分離と同時に,光学異性体ごとの濃度を得ることが可能となる。今年度は,本研究で目指す分離・検出法の肝となる,電気透析デバイスによる分離を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,光学分割フローデバイスの開発を実施した。これまでに,溶存イオンを電場と膜透過により定量的に抽出可能なイオン抽出デバイスを開発し,測定試 料の前処理,溶存クロム種の酸化数別分離分析へと展開してきた。本研究では,非常に分離が難しい光学異性体の分離を検討するため,まず,より容易に光学異 性体分離を達成出来そうな化合物を選定した。キャピラリー電気泳動による物質と光学異性体の同時分離に実績のあった,3-フェニル酪酸(以下,PLA)をターゲットとすることにした。まず,光学分割フローデバイスの抽出特性評価のため,一般的なクロマトグラフーによる3-PLAの分離分析条件を確立した。次に,光学分割フローデバイスとして用いるイオン抽出デバイスによる抽出特性を評価した。すると,60 Vの印加電圧において,50%の抽出効率が得られた。抽出効率改善のため,イオン透過膜の比較評価を実施した。その結果,従来用いてきたセルロース膜は,広いpH範囲において負のゼータ電位を持つため,陰イオンとして泳動されるPLAの抽出を阻害していたが,中性の膜であるポリサルホン膜を用いると,同じ電圧で定量的な抽出が可能であった。光学分割のために,キラルセレクターを導入する手法を検討した。キラルセレクターとして,βーシクロデキストリン(β-CD)を用いた。β-CDとPLAの混合溶液を試料として導入して抽出すると,β-CDとの相互作用が強いL体の抽出効率が低下した。β-CDとL-PLAの錯形成により電場下における移動度が低下したのが原因と考えられる。さらに,高濃度のβ-CD溶液を透過まくとして扱う手法について検討を進めることで,L体とD体における抽出特性に差を大きくすることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,実際にクロマトグラフィーによる分離系と接続し,ポストカラムでの光学分割へと展開していく。農薬としてもちいられ,光学異性体でその活性が大きく異なるPLAを光学異性体ごとに分離定量する手法の確立を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,クロマトグラフィーに直結したシステムによる分離分析を検討予定であったが,より高い光学分割特性を目指した検討を進めため,実施していない。次年度,キラルセレクターや他の対象物質の分離分析の実施に伴い,分離カラムなど消耗品費が必要となるため。
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