生体内において,光学異性体は区別して認識されている。例えば,地球上の生体を構成するたんぱく質はL-アミノ酸のみからなっている。一方,1986年に生体内にL体のわずか数%ではあるがD-アミノ酸の存在が発見され,このD体が様々な生理作用を担っていることがわかってきた。また,サリドマイド事件は,光学異性体の一方が薬理効果,他方が毒性を示すことが原因であり,グルタミン酸における味の違い,リモネンにおける香りの違いなど光学異性体により生体反応は大きく異なっている。そのため,医薬品や食品などの産業において光学分割や光学異性体ごとの定量は重要な課題の1つである。最近では,D-アミノ酸のいくつかが慢性腎臓病のバイオマーカーであることが報告され,代謝物中の光学異性体分析による医療診断の可能性も示されている。本研究では,電気透析に基づく溶存イオン抽出デバイスにより,光学異性体を分離する方法を開発している。今年度は,膜への化学修飾を利用した分離法を検討した。具体的には,分子鋳型の手法を適応し,鋳型となるターゲット分子としてL-アミノ酸を使用し,一方の選択的な透過について評価した。わずかではあるが差異が見られたため,膜厚を大きくしたり,誘導体化後のアミノ酸を鋳型としたり,光学分割用の試薬を鋳型に組み込んだりすることで,選択性を向上した。現在,さらなる最適化を進めている。その後,アミノ酸分離後のポストカラムにおける光学分割システムを構築し,本研究の目的を達成する予定である。
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