研究課題/領域番号 |
17K05910
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石原 浩二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20168248)
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研究分担者 |
稲毛 正彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20176407)
菅谷 知明 千葉工業大学, 工学部, 助教 (30633367)
高木 秀夫 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 准教授 (70242807)
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 教授 (80373033)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ボロン酸 / D-ソルビトール / 反応機構 / ベンゾオキサボロール / アリザリンレッドS / ピリジルボロン酸 / 直線自由エネルギー関係 |
研究実績の概要 |
本年度は、主にボロン酸の反応性に関する次の三つの課題に関する基礎研究を行った。 (1)ベンゾオキサボロールとアリザリンレッドSの反応機構は既に他研究者により報告されているが, 基礎データの解釈に根本的な誤りがあるため, 反応機構論的再研究を行った。詳しい解析の結果, 反応機構は既報のものとは全く異なり, 基礎データの正しい解釈の重要性を示すことができた。また, この反応系は機構論的に非常に興味深く, 我々がこれまでに提案してきた3配位ボロン酸と4配位ボロン酸イオンの反応機構の妥当性を実験的に裏付ける成果となった。 (2)pKaの低い4-ピリジルボロン酸(pKa = 4.00)及びN-メチル-4-ピリジニウムボロン酸(pKa = 3.96)とD-ソルビトールとの水溶液中の反応を速度論的に詳細に研究し, 詳細な反応機構を明らかにした。N-メチル化により, ボロン酸のpKaやボロン酸の反応性は殆ど影響を受けないが, ボロン酸の水への溶解度が大きく増し, ボロン酸イオンの反応性が大きく減少することが分かった。 (3)これまで殆どのボロン酸について前者の方が反応活性であるという結果が得られているが, 一部の反応系では, 反応性が逆転した結果も得られている。また, 一部の反応系のボロン酸及びボロン酸イオンの速度定数とボロン酸のpKaの間にはそれぞれ負の傾きと正の傾きをもった直線自由エネルギー関係が成り立ち, よりpKaの高いボロン酸では反応性の逆転が起こることが示唆されている。そこで, アリザリンレッドSを配位子とし, 反応性の逆転が起こるか否かを検討した。その結果, 反応性の逆転が観察された。この結果は, ボロン酸及びボロン酸イオンの反応性が主にボロン酸の酸性度によって支配されていることを示すが, 反応性が逆転するボロン酸のpKaと配位子のpKaとの関係は, 今後の研究課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次に示すように着実に成果が得られている。 (1)pKaの低い4-ピリジルボロン酸(pKa = 4.00)及びN-メチル-4-ピリジニウムボロン酸(pKa = 3.96)とD-ソルビトールとの水溶液中の反応を速度論的に詳細に研究した。その結果, N-メチル化により, ボロン酸のpKaやボロン酸の反応性は殆ど影響を受けないが, ボロン酸の水への溶解度が大きく増し, ボロン酸イオンの反応性が大きく減少することが分かった。また, ボロン酸イオンの反応は緩衝剤陽イオンにより加速されることが分かった。 以上のように, 緩衝剤の影響も含めた詳細な反応機構を明らかにすることにより, ボロン酸センサーの反応中心として, ピリジルボロン酸とN-メチルピリジルボロン酸を組み込んだ際のセンサーの反応性の違いが明らかとなった。 (2)当研究室におけるボロン酸のジオールに対する反応性に関する研究の結果、殆どのボロン酸について前者の方が反応活性であるという結果が得られているが, 一部の反応系では反応性に殆ど差がない場合や, 例外的に反応性が逆転した結果も得られている。また, 同一のジオールに対する一連の反応系では, ボロン酸及びボロン酸イオンの速度定数とボロン酸のpKaの間には, それぞれ負の傾きと正の傾きをもった直線自由エネルギー関係(LFER)が成り立つことが示され, よりpKaの高いボロン酸では反応性の逆転が起こることが示唆されている。そこで, 高いpKaのボロン酸との反応の追跡が可能なアリザリンレッドSを配位子とし, 反応性の逆転が起こるか否かを検討したところ, pKaのかなり高いボロン酸に対して反応性の逆転が観察された。しかし, 反応性が逆転するボロン酸のpKaと配位子のpKaとの関係は, 今後の研究課題である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)本年度までの発光性アントラセン架橋ジ(ピリジルボロン酸)とD-グルコースとの反応機構論的研究により, 生理学的pHにおいては, 3配位ー配位, 4配位ー4配位の2つの化学種が反応活性であることが分かった。また, ジボロン酸の二つのボロン酸部位のうち片方のボロン酸部位とD-グルコースとの最初の反応が律速で, もう片方のボロン酸部位との分子内反応は速い反応であることが分かった。また, 反応は3配位部位から優先的に進むことが分かった。一方, ボロン酸とボロン酸イオンの反応性に関する基礎研究により, 3配位のボロン酸はそのpKaが低いほど, 4配位のボロン酸イオンはpKaが高いほど反応活性であることが分かった。以上のことを踏まえ, 本年度以降はより優れたD-グルコースセンサーの開発を目指し, ピリジルボロン酸のピジン環に電子求引性置換基を導入したアントラセン架橋ジ(ピリジルボロン酸)の新規合成を行う。 (2)これまで様々なボロン酸配位子を有する発光性のシクロメタレート型Ir(III), Ru(II), Pt(II)錯体の合成を行ってきたが, これらはD-フルクトースやD-ソルビトールに対する反応性は高いが, 糖選択性に乏しい。本年度以降は, 2,2’-ビピリジンの5位と5’位にピリジンボロン酸又はベンゾオキサボロールを有するジボロン酸配位子の新規合成を行う。また, この配位子を有するシクロメタレート型Ir(III), Ru(II), Pt(II)錯体の合成を試みる。 (3)フェニルボロン酸とD¬-グルコースの反応の生成物は, 19F NMRの結果より4種類以上であることが分かっているが, それらの生成が同時におこるのか逐次的に起こるのかを, 1H, 11B, 19F NMRスペクトルの時間変化を測定することにより明らかにし, 反応機構の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬および実験器具が予定額より安価に購入できたため。試薬および実験器具を購入予定。
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