研究課題/領域番号 |
17K05914
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 英俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10300873)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウイルス / 感染 / ラマン分光学 / 多変量解析 |
研究実績の概要 |
本年度は研究をいったんとりまとめ,論文を国際雑誌J. Biomed. Opticsに投稿した。感染3時間での早期検出の成功,10回以上の繰り返し実験によるデータの増加と信頼性の向上に関して報告した。 ラマン分光法を用いて細胞へのウイルス感染が検出できる原理については,まだ明確に説明されていない。細胞には細胞周期のほかにも,培養条件など細胞内の分子組成を変化する要因がある。原理的には,ウイルス感染が,これらの変異を超えた大きな分子組成変化を生じるときのみ,検出が可能である。ウイルス感染初期の分子組成変化はまだあまり研究されておらず,分からないことが多い。早期発現タンパク質の一つであるE2は,ウイルスのDNAを複製するDNAポリメラーゼであり,ウイルス複製経路で最初に多量に発現するタンパク質である。E2発現量をモニターした結果,感染後3時間では同タンパク質の発現はほとんど無く,免疫染色でも確認できなかった。従って,感染後3時間では,細胞内のウイルスの複製はまだ始まっていないことが確認された。 本年度は新しいイメージングラマンシステム,イメージング赤外分光システム,自動スペクトル処理ソフトウェアなど,新装置,技術の開発と導入を進めた。イメージングラマンシステムの導入により,細胞内に局在する変化を探査することが可能になった。また,アデノウイルスと比較するためにレンチウイルスを導入し,同じHEK293細胞に対する感染実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HEK293細胞が継代の繰り返し回数により,培養速度が異なることが示唆された。ウイルス感染の検出には同世代の培養細胞を比較するため,ウイルス感染による分子組成変化を検出できることには違いないが,母細胞の性質が異なると感染に伴う分子組成変化に影響が生じる可能性がある。従って,培養されたHEK293細胞の性質が一定になるように,培養条件を調整する研究を行い,研究計画が一部計画通りに達成できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
実用性の評価を目的とし,検出・判別技術の高度化,性能評価実験を実施する。異なるウイルス種間(レンチ,ヘルペス)の判別能力の有無や,キャプシドタンパク質への細胞応答を解析することにより,エンベロープや遺伝子タイプが細胞に与える影響を解明する。LC-MS解析により,個別の変動タンパク質について種別とコードする遺伝子を同定し,ウイルス感染に対する細胞の応答を解明する。ラマン分光分析と共にGFPを用い,in situでの検証実験を行い,本技術の信頼性と実用化の可能性を評価する。 異なるウイルスを用いて感染検出を目指す。再現性の確認を実施すると共にデータを蓄積し,信頼性の高い検出モデルを開発する。 ラマン分光分析が検出した2段階の感染過程について,それぞれの原因を定量的に解明する。新しく導入したラマンイメージングシステムを用い,ウイルス感染に伴う変化が細胞内のどの場所で生じ移動していくのかを調査する。ラマンイメージ測定には数時間以上要する。タンパク質分解などを起こさず細胞活動を停止させる,低温処理技術の開発が必要である。二次元電気泳動とLC-MSにより変動タンパク質を同定する。変動タンパク質の局在化の観測とGFPラベルにより,ターゲットタンパク質の増減とラマンスペクトルの変化の相関を明らかにする。また,RNAiによる発現の抑制などを用い,検証結果と従来の報告データを比較し,遺伝子発現メカニズムを解明し,本技術の原理的妥当性を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していなかった細胞培養条件の研究で出費が増えたため,CO2インキュベーターの購入を一時延期した。従って,次年度使用額は一時的な延期に伴う出費の遅れであり,当初の計画による翌年度分の請求額に加えて,来年度に支出する予定である。
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