研究課題
ラマン分光分析を用いると,なぜ短時間で細胞の変化が観測できるのか,この問題について答えを得るために,本年度は外殻(キャプシド)タンパク質に関する研究を続けた。レンチウイルスをHEK293細胞に感染させると,RNAの逆転写,細胞ゲノムへの組み込み,RNA配列の増幅がまず初めに起きる。その後,組み込まれた遺伝子に含まれるGFPが発現し,早い細胞では約24時間で蛍光顕微鏡での観察が可能になった。今回用いている遺伝子組換えレンチウイルスは,外殻タンパク質をコードしていないためGFPのみを作る。アデノウイルスでは,感染後約9時間から特異な構造を持つタンパク質の合成が,ラマン分光分析で検出されたが,レンチウイルスでは24時間後まで特異なタンパク質の合成は観測されなかった。蛍光観測の結果と一致している。レンチウイルスでは感染後3時間から9時間まで,スペクトルのDNA,RNAの領域に変化が観測された。この変化がRNAの逆転写や細胞ゲノムへの組換えに起因するのか,ウイルス侵入に対する細胞の反応なのかを判断するため,レンチウイルスの外殻タンパク質のみを細胞に与えた。外殻タンパク質は細胞内に取り込まれることが知られている。ラマン分光分析により変化を観察したが変化が見られなかった。従って,細胞は外殻タンパク質に対して反応を示さないことが示唆された。本年度の結果は,ラマン分光分析が細胞内で増幅される遺伝子およびタンパク質の変化に非常に敏感に反応し,検出していることを示唆している。すなわち,リソソーム分解とウイルス遺伝子の細胞質内への放出,核内移行,遺伝子複製のプロセスが,通常考えられているよりも速い速度で進行することを示している。また,遺伝子が異なるウイルスに対して早期の判別が可能であることを示唆しており,ラマン分光分析でcovid-19など特定ウイルスの存在を判別できる可能性がある。
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