本研究課題では、一本鎖DNAに高い結合性を示す高度好熱菌由来の低温ショック蛋白質(CSP)に、合理的な分子設計により高い熱安定性と高い結合性とを兼ね備えた変異体蛋白質を創製する。さらに、高い熱安定性が要求されるPCR法で、一本鎖DNAの高次構造形成を抑制することで、より確実なDNA増幅法の実現をめざしたものである。平成29-30年度で、立体構造に基づいて、高安定性と高結合性を実現すると期待される2本のジスルフィド結合を導入し、大腸菌で大量発現・精製し、pH 7.0で100℃以上の熱変性温度を示し、PCR法への使用に十分な熱安定性を持つこと、および野生型と同等の一本鎖DNAへの結合性を保持することを確認した。令和元年度には、さらにもう1本のジスルフィド結合を導入した6変異体を設計・発現・精製し、結合性は4変異体よりも多少減少するものの、より高い熱転移温度を示すことを明らかにした。PCR法の際に、これらの変異体蛋白質を適度な濃度で共存させることで、特に伸張反応の時間短縮などに効果があることを確認したが、高濃度で共存させるとPCR産物が減少することがわかった。この原因を探るため、DNA二重螺旋構造や三重螺旋構造へのCSPの共存の効果を確認したところ、三重螺旋構造だけでなく、二重螺旋構造も不安定化する効果を持つことがわかった。PCR反応に応用するには、低温での一本鎖DNAへの結合性を保ちながら、アニーリング温度でのDNAの2重螺旋構造形成を阻害しないよう、結合性の温度によるオン・オフ制御が必要であると考えられる。CSPのこの性能を評価するため、一本鎖DNAとCSPの複合体の熱解離反応をDSC測定で初めて観測し、一本鎖DNAの塩基配列を設計することにより、定量的な測定法を確立した。
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