研究課題
光機能性膜タンパク質・バクテリオロドプシン(bR)を用いた新規光デバイス開発を目指し、生体分子が本来の機能を発揮し得る固体環境の実現に取り組むとともに、固体試料中で見られた紫膜積層の機構解明を目的として研究を行った。高分子鎖間が水素結合などで架橋される物理架橋ゲルは60℃付近で融解するなど応用面で不利なため、化学架橋剤で共有結合的に架橋される化学架橋ゲルによる固定も試みた。ポリアクリルアミド(PAAm)ゲルで紫膜を固定し、bRの光機能性を過渡吸収分光により評価した結果、溶液中のbRと同等の光機能性を示した。不均一な多孔質なPAAmゲルによる固体試料を凍結融解処理することで紫膜積層が起こり、かつ90℃まで加熱してもゲル構造を維持したことから、PPAmの系は有望な紫膜の固定化法であることがわかった。紫膜積層との関連が示唆されるポリビニルアルコール(PVA)溶液中での紫膜の約20 nmの周期構造の形成機構について引き続き検討を行った。周期構造はPVA以外の親水性高分子でも観測され、その周期は高分子濃度や重合度に応じて変化したことから、高分子溶液中でコロイド粒子間に働く枯渇引力の寄与であることがわかった。コロイド粒子の安定性を記述するDLVO理論を拡張し、紫膜間に働くvan der Waals力、静電斥力、枯渇引力を考慮したポテンシャル計算を行ったところ、膜間距離17 nm付近に極小を持つポテンシャルカーブを再現した。これらのことから、高分子溶液中での紫膜の周期構造形成機構が解明された。紫膜積層に対するゲルネットワーク構造の影響評価のために、新たに顕微鏡観察の手法を取り入れた。紫膜積層が見られたPAAm固体試料のゲルネットワーク構造の変化を観察したところ、凍結融解処理後に多孔質構造のポアサイズの増加が見られ、多孔質なゲルネットワーク構造と紫膜積層の因果関係がはっきり示された。
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Biochim. Biophys. Acta - Biomembranes
巻: 1861 ページ: 631-642
10.1016/j.bbamem.2018.12.015