研究課題/領域番号 |
17K05935
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
坂口 和彦 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80264795)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多官能性カロテノイド / ペリジニン / フコキサンチン / 海洋光合成 / 超効率的エネルギー伝達 / デオキシペリジニン / ICT準位 / 超分子複合体 |
研究実績の概要 |
藻類由来の多官能性カロテノイドのペリジニンおよびフコキサンチンは、海洋光合成初期過程を担う集光性補助色素であり、クロロフィルおよびタンパク質と共に超分子複合体(PCPおよびFCP)を形成し、吸収した光エネルギーを超効率的に(>95%および>80%)クロロフィルへ伝達する。本研究の目的は、この超効率的エネルギー伝達機構の解明である。これまでの分光学的研究により、ペリジニンおよびフコキサンチンは新規なICT(分子内電荷移動)エネルギー励起準位を持つことが明らかとなっている。これより、ICT準位の介在が海洋光合成の超効率的なエネルギー伝達に深く関わっていること、また、ICT準位の発現には、両者の化学構造に共通な「アレンとカルボニル基が共役した特徴的なポリエン構造」が重要であることが提唱されている。 超効率的エネルギー伝達機構の解明には、ICT特性をチューニングしたカロテノイドを組み込んだ超分子複合体の再構成とそのエネルギー伝達効率の測定が必須となる。そこで本研究では、超分子複合体の再構成が期待できるICT特性を軽減させたカロテノイド類縁体として、デオキシペリジニンをデザインした。デオキシペリジニンは、ペリジニンのイリデンブテノリド部位のカルボニル基を取り去った構造を持ち、分子サイズおよび形状はペリジニンと酷似している。したがって、既存の技術によりペリジニンをデオキシペリジニンに置き換えた疑似PCPの再構成が期待できる。 平成29年度は、デオキシペリジニンの合成に取り組み、両官能性ポリエンフラグメントの合成とそれらのカップリングにより全合成が達成できた。デオキシペリジニンが持つジヒドロフランが共役したポリエン骨格は天然カロテノイドには存在せず、その安定性および性質を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両官能性ポリエンフラグメントのカップリングによるポリエン鎖の伸長を鍵として新奇なデオキシペリジニンの合成に成功した。金触媒を用いた分子内環化によるこれまでに類例がないポリエンが共役したジヒドロフラン環の構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
合成できたデオキシペリジニンの物性評価ならびに、これを組み込んだ超分子複合体の再構成を試みる。 一方、これまでの研究により、超効率的エネルギー伝達機能を持つフコキサンチンの類縁体であるパラセントロンがICT特性を持つことを明らかにしている。そこで、超分子複合体の再構成を視野に入れ、パラセントロンをリード化合物として、ポリエン鎖長の変化、および、カルボニル基の化学修飾によりICT特性をチューニングしたパラセントロン類縁体をデザインし、その合成に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今後の当該研究の推進には、当初想定していなかったオレフィンメタセシス反応などを組み込む必要があり、多種多様な金属触媒およびリガンドが新たに必要となる。そのための費用として当該年度の直接経費の一部を基金として次年度に繰り越した。 (使用計画)基金として繰り越した分は、上記を含む比較的高価な試薬の購入に充当する計画である。また、研究を担当した大学院生の学会参加費、交通費および宿泊費の補助にも充当したい。
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