研究課題/領域番号 |
17K05939
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
小池 あゆみ 神奈川工科大学, 応用バイオ科学部, 教授 (20454176)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シャペロニン / GroEL / DDS / ドラッグデリバリー / フラーレン |
研究実績の概要 |
不安定なゲスト分子を分解から保護しながら、特定の標的部位に運び、必要なときに放出することができるナノキャリアの開発は、薬物の十分な薬理効果の発揮のために重要である。シャペロニン(GroEL/GroES)は、14量体ダブルリング構造をしており、リング内部に直径約5nmの空洞を持つタンパク質性ナノカプセルである。細胞内では、空洞に変性タンパク質を閉じ込めて構造形成させ、ATPの加水分解が終了すると蓋(GroES)が開いてゲストタンパク質を放出する。細胞内局所送達のためのシグナル配列を遺伝子工学的に結合することで局所送達が可能になるため、変性タンパク質の代わりに薬剤を標的部位に送達するキャリアとしての応用を検討している。 タンパク質以外の内包物として、フラーレン誘導体を検討した。フラーレンは光による増感作用を利用した薬理作用があり着目されているが、生理的条件では溶解せず,生体内の局所送達は難しいと考えられた。DNAに共有結合可能なフラーレン誘導体をDNAの近傍に配置させ、光増感作用によってDNAを高効率で切断させることで、標的細胞を死滅させることを評価した。核輸送シグナル付与型シャペロニン複合体にフラーレン誘導体を内包し、核に送達することで、生細胞数や小核形成数の変化から高い薬理作用を示すことが検証できた。核輸送シグナル付与型シャペロニン複合体は、12~24時間で細胞質に到達し、36~48時間で核内に到達していると認められた。 また、GroEL(D52,398A)/GroES の2つの空洞は、ADPを用いるとGroESを片側にのみ結合するが、ATPを用いるとGroESを両側に結合する。これを利用し、FePt粒子をまずADPで内包させ、次にATPを用いてPtTMA粒子を内包させたところ、異なる物質をそれぞれの空洞に閉じ込めることが可能であることが示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラーレン誘導体をシャペロニンカプセルに内包させ、細胞外から投与することにより、細胞への薬理作用の向上がみられた。使用するGroELとして、ATP加水分解に重要なアミノ酸残基を置換し反応サイクル時間の異なるGroEL変異体を使用して、生細胞数や小核形成数の変化と薬剤放出時間の間の相関関係を解析しているが、結果はまだ得られていない。 2種の金属ナノ粒子を順番に1分子のシャペロニンカプセルに内包し、四者複合体を形成できたが、2種の粒子の内包率が低く、EDS-TEMでの内包物の元素分析で苦戦している。
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今後の研究の推進方策 |
核酸医薬は、作用する遺伝子に対して高い特異性を持つことから、がん等の根本的な治療薬として期待されている。しかし、そのままでは細胞内に取り込まれず、取り込んだとしても生体内で容易に分解されてしまうため、ターゲット細胞に届けることが困難である。シャペロニンGroEL/GroESの空洞内には、分子量約1~6万のタンパク質が内包されると言われており、20塩基程度の核酸医薬(siRNA)はそのまま内包させることが可能かもしれない。また、金属ナノ粒子はすでに内包できているため、パーティクルガンによる遺伝子組換えの際の方法にならい、核酸を結合させた金属粒子を作製してシャペロニンカプセルに内包し、細胞の核へ送達することを試みる。シャペロニン複合体外部からのヌクレアーゼなどによる分解は、蓋を閉じたシャペロニンでは不可能であると期待できる。蛍光標識した核酸の蛍光顕微鏡による細胞内動態観察と薬理活性評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
金属ナノ粒子の購入の費用を予定していたが、文献の合成方法により質の良い粒子を大量に合成できたことと、研究室保有の金属粒子を使用したことで、費用が抑えられた。 次年度実験計画で必要な核酸の合成あるいは購入がまだ準備できていないためその費用(物品費)に使用する予定である。
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