研究実績の概要 |
がんの転移を制御することは、がん治療において最も重要な戦略の一つである。複合脂質膜(ハイブリッドリポソーム:HL)は、それ自身でヒト培養がん細胞に対して顕著な増殖抑制効果および担がんモデル動物に対する治療効果を示し、正常動物に対しては無毒性であり副作用がないことを報告している。また、制がんメカニズムが、アポトーシス誘導に起因する可能性を見出している。そこで本研究においては、抗がん剤を全く含まないHLを用いて、がんの中でもとりわけ悪性で転移能の高い大腸がん、肺がん、リンパ腫、骨肉腫などの転移に対する効果的な化学療法を目指す。 カチオン性リポソーム(CL)のヒト膵臓がん(BxPC-3)細胞に対する抗転移効果を検討した。スクラッチアッセイにより、BxPC-3細胞の遊走に対するCLの阻害効果が観察された。CLは、BxPC-3細胞の仮足形成を抑制した。マトリゲル浸潤アッセイにより、BxPC-3細胞の浸潤に対するCLの抑制効果が観察された。ELISA法により、BxPC-3細胞に対するCLの浸潤抑制効果は、MMP2、MMP9、およびMMP14の発現阻害によることが明らかになった。ヒト膵臓がんの腹膜播種転移異種移植マウスモデルに対するCLの抗転移活性を初めて明らかにした。(Biochem. Biophys. Res. Commun., 511, 504(2019))。 セラノスティクスとは、診断と治療を同時に行う手法のことで、治療時間の短縮や患者の負担軽減といった利点がある。本研究は、抗癌剤を含まないハイブリッドリポソーム(HL)のみによる癌治療と蛍光プローブ(ICG)を含有したHL/ICGによる癌検出を目指した。HLは乳癌同所移植モデルマウスに対して高い治療効果を有しつつ、生体外から乳癌を検出可能であり、低い副作用と高い有効性の発現を実現可能な新しい癌セラノスティクス薬剤としての有用性が示された。(Medical Science Digest, 45, 516(2019))
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