研究実績の概要 |
研究代表者のこれまでの分子触媒の開発研究において、既存の手法と比較して少ない触媒量で高収率・高エナンチオ選択性で生成物を与える不斉シアノ化反応を開発した。この研究過程において原料のN-カルバモイルイミンを入手する際、相当するカーバメートの酸化を行ったが、最善の手法である酸化剤は、酸化剤自身の大量入手の必要性と酸化反応後の処理が煩雑で大量合成には不向きであった。この経験からカーバメートの簡便な酸化法の必要性を感じ、分子状酸素(以下、酸素と省略)による酸化反応を取り入れた上で触媒化できれば、効率的でかつ環境調和的な合成手法を開発できると研究に着手した。 カーバメートを基質する酸化反応の中でN-カルバモイルテトラヒドロイソキノリンとアルコキシベンゼンの酸化的カップリング反応を検討課題として選定した。報告例に触媒反応はなく、量論量のオキソアンモニウム塩やt-BuOOHを酸化剤として用いていることから改善の余地がある。また、鉄や銅などの金属塩触媒(5から10 mol%)を用いたカップリング反応も報告されているが、同様に酸化剤に量論量以上の過酸化物を用いている。従って、酸素酸化を取り入れた触媒的酸化カップリング反応は新しい手法になりうると考えた。 初年度となる本年度は、課題の基軸となる酸素酸化を取り入れた触媒反応を構築するために、基質として窒素原子にベンジルオキシカルボニル基を導入した1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと、高い求核性と位置選択性の考慮が不要の1,3,5-トリメトキシベンゼンのカップリング反応をモデル実験に選んで、基礎的な検討から着手した。初期検討の結果、良好な活性を示す触媒系を発見し、温和な条件下で酸化的カップリング反応が進行することを実証した。この反応において酸素酸化がターミナル酸化プロセスとして不可欠であることも確認し、基質適用性についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)を導入したN-Cbz-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと1,3,5-トリメトキシベンゼンのカップリング反応をモデル実験として条件検索を行った。[4-AcNH-TEMP=O]+ BF4-を用いた量論反応では室温、3時間の条件下、高収率で生成物を与えたことから、この成績を触媒化の目標値とした。触媒化の検討では、アルコールの触媒的酸化で成書になっている銅触媒を用いた条件を起点として着手した。酸化剤である[4-AcNH-TEMP=O]+ BF4-の触媒化は達成できたが、酸素酸化による銅塩の触媒化は達成できなかった。種々検討を重ねた結果、4-AcNHTEMPOと硝酸を加えた系が触媒活性を示した。 モデル実験は同上の触媒系 10 mol%を用いると3時間でカップリング生成物を収率58%で得た。さらに硝酸のみを添加することにより92%まで収率が向上した。様々なカルバモイル基を試したところ、Cbz基の代わりにBoc基やメトキシカルボニル基が導入された基質は高収率で反応が進行したが、フェノキシカルボニル基が導入された基質では、多くの原料が回収された。メトキシカルボニル基置換のイソインドリンと1,3,5-トリメトキシベンゼンの反応では、カップリング生成物が33%の収率で得られた。この反応では、もう一方のベンジル位にも反応が進行したダブルカップリング生成物も得られた。Cbz置換したテトラヒドロ2-ベンゾアゼピンの場合には、ベンジル位の単純な酸化反応も起こらず、原料回収に終わった。その他、ベンジルアミン類においてもカップリング生成物は得られなかった。カップリングパートナーに3,5-トリメトキシトルエンを用いた場合には、位置異性体が混合した生成物が高収率で得られた。また、1,3-ジメトキシベンゼンとの反応ではカップリング生成物が58%の収率で得られた。
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