研究課題/領域番号 |
17K05948
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉村 倫一 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (10339111)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオン液体 / ジェミニ型 / 両親媒性化合物 / 水溶液物性 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
イオン液体は、高い熱安定性や導電性などの特性を有し、不揮発性や不燃性の性質から環境負荷の低い溶媒として近年注目されている。また、従来の単鎖型両親媒性物質を2分子繋いだ構造のジェミニ型両親媒性物質は、対応する単鎖型と比べて高い表面張力低下能や低い臨界ミセル濃度(CMC)などの優れた界面活性を示すことが知られ、環境負荷低減の材料としても期待されている。本研究では、環境調和型の分子集合性イオン液体の開発を目的として、これまでに報告のない四級アンモニウム塩系ジェミニ型イオン液体の分子設計・合成を行い、ジェミニ型イオン液体の諸物性および水溶液中での物理化学的性質を調べ、また、これらのイオン液体を媒体として、オキシエチレン(EO)鎖長に分布のない単一鎖長EO 系非イオン界面活性剤の物性や集合体のナノ構造を検討する。 各種エチレンアミン(エチレンジアミンや酸素・窒素原子をスペーサーに含むエチレンアミン誘導体のメチル化化合物)から誘導した環境負荷低減機能を有するジェミニ型の分子集合性両親媒性イオン液体を合成した。この新規両親媒性イオン液体の物性と、水溶液中での両親媒性物質としての性質および形成する集合体のナノ構造を種々の測定により詳細に調べ、さらに、これらの両親媒性イオン液体を媒体として、ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤の物理化学的性質および形成する集合体またはドメインのナノ構造について検討した。また、これらの物性に及ぼすイオン液体の構造(アルキル鎖長や対イオン)の影響について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の計画は、(1)粘度のずり速度依存測定、(2)単一鎖長ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤の合成、(3)ジェミニ型両親媒性イオン液体中における単一鎖長非イオン界面活性剤の集合体ナノ構造、(4)乳化剤としての評価、であった。(2)の非イオン界面活性剤の合成に関しては、試行錯誤を繰り返しながら、目的物を高純度で収率よく得ることに成功した。(1)に関して、合成した2タイプのジェミニ型両親媒性イオン液体の性質ならびに水溶液中での物性(粘度)を調べた。また、(3)のジェミニ型両親媒性イオン液体を媒体として用いた非イオン界面活性剤のナノ構造は、動的光散乱、蛍光、低温透過型電子顕微鏡、X 線小角散乱、偏光顕微鏡などの装置を駆使して検討したが、イオン液体の構造と物性との関係は明らかとなっていない。今後、この関係を明らかにすべく、さらに詳細な実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)両親媒性イオン液体の乳化剤としての評価について検討する。水相にはジェミニ型両親媒性イオン液体を超純水に溶解したもの、油相には流動パラフィンやスクワランを用いる。この水相と油相を任意の比で混ぜて、ホモジナイザー、超音波処理により、安定なエマルションの調製を行う。調製したエマルションの粘度をずり速度に対して測定し、得られる流動曲線から例えば擬塑性流動の場合、液滴の詰まり具合やサイズの評価、合一や破壊の定常状態について検討する。また、エマルションの安定性を溶液安定性・分散性評価装置タービスキャンMA を用いて調べ、粒子の形状を光学顕微鏡の観察により調べる。さらに、水相と油相の界面に働く界面張力および界面粘弾性を界面粘弾性測定装置Tracker を用いて調べ、エマルションとの関連性について検討し、エマルションの熱力学的安定性および生成機構(メカニズム)について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行するには、両親媒性イオン液体の表面張力を測定する必要があり、測定によって臨界ミセル濃度や表面張力低下能、分子占有面積、ギブズエネルギーなど、さまざまな物理化学的性質を知ることができる。そのため、表面張力の測定は、この研究では必要不可欠である。これまで10年以上にわたって、Krussの表面張力計K11を使用してきたが、最近、この機器の調子がよくなく、長年の使用による寿命が原因と考えられる。したがって、表面張力計を購入したいと考え、前倒し請求を行ったが、機器の選定に時間を要し、年度内に購入することができなかった。次年度始めに購入予定である。
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