研究課題/領域番号 |
17K05949
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中谷 久之 長崎大学, 工学研究科, 教授 (70242568)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リサイクル / 難燃剤 / ポリスチレン / ドーマント種 |
研究実績の概要 |
我々は現在、狙った分子量になるように高分子鎖切断の制御が可能、含有している有害な添加剤のみ選択的に分解するという今までにはない新規リサイクル(知能化リサイクル)技術の開発を行っている。今年度は知能化リサイクルのターゲットの1つであるポリスチレン(PS)中に添加されたヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)難燃剤の選択的分解を行った。 HBCDは難分解性有機物の一種であるため、現存しているHBCD含有PSはそのままでは、リサイクルできない。我々は、光触媒である二酸化チタンとポリエチレンオキシド(PEO)ならびにヒンダードアミン系光安定剤(HALS)を組み合わせた新規な光・熱触媒システムを開発し、PS中に存在したままでのHBCDの選択的を試みた。HALSに光を照射させることでニトロキシラジカル(TEMPO)が生成する。このニトロキシラジカルがラジカル種(R・)をトラップしドーマント種になることで高分子材料の劣化を抑制する。しかしながら、熱を与えるとドーマント種からR・とTEMPOが再び生成する。このとき、与える熱の温度と時間を調整することで、これらラジカル量をコントロールすることが可能である。HALSを加えることでPSの架橋を抑えることはもちろん、ラジカル種の生成量を調整でき、PS中のHBCDだけを選択的に分解できると考えた。 結果として、照射した可視光の時間ならびに熱処理温度の最適化を図ることで、PS中に重量比で10%添加したHBCDを約94%分解率で選択的に分解することに成功した。分解後のPSは分子量の低下はなかったが、動力学的測定からスチレンモノマーがグラフトしたPSがリサイクルされた事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は知能化リサイクルのターゲットの1つであるポリスチレン(PS)中に添加されたヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)難燃剤の選択的分解を行った。HBCDに関してはほぼ完全に分解できる条件を見出すことができた。この成果を英文雑誌(査読付き)に1報投稿した。成果は査読を経て論文として掲載された。また全国規模の学会に5件発表することができた。さらには、1件の招待講演をする機会を得ることもできた。 当初は本年度は、二酸化チタン(TiO2)とヒンダードアミン光安定剤(HALS)を組み合わせた精密高分子鎖切断プロセスの開発を中心に行うことを予定していた。TiO2系光触媒をPS-block-ポリアクリル酸(PS-b-PAA)のナノカプセルに包摂させ、これに市販のHALS化合物を組み合わせて光劣化を行うことでドーマント種(TEMPO-R)にして休止させる。そして120℃~150℃程度の一定の温度下で空気を加えながらドーマント種からR・を制御して発生させる。熱劣化およびTiO2の存在により自動酸化劣化で効率良く分子鎖切断を起こさせる。架橋反応である高分子鎖ラジカル同士の反応は、その低い高分子鎖の分子運動性によりTEMPOと反応して再びTEMPO-Rにすることで抑制する。以上の機構の進行を確認するのが本年度の主な目的であった。 実際には、確認は直ぐにでき、この過程で得た知見を基に一部計画を前倒し、変更してPS中のHBCDの選択的分解を行い、成功した。 以上の理由により、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
計画では、平成30年度はナノセルロース/ポリプロピレン(PP)複合材料用のPPオリゴマー型相容化剤化の合成技術を確立であったが、最近、ナノセルロースの製法にブレイクスルーがあり、親水・疎水性の両方を備えたナノセルロースが製造(http://www. chuetsu-pulp.co.jp/cellulose)できるようになり、相容化剤開発の必要性が低下している。そこで計画を変更して、平成31年度に計画していた水性ポリウレタン(WBPU)のオリゴマー体経由によるケミカルリサイクル法を確立する。 WBPUはPU分子骨格に親水基を導入した水分散であり、環境に優しいポリマーである。一方で塗料は建物の外壁など屋外で用いられることが多く、直射日光などにより、はがれやひび割れなどの劣化が起こる。本研究では、WBPUに光触媒作用を有するTiO2および光に対しては安定であるが熱処理によってラジカルを生成するヒンダードアミン系光安定剤(HALS)を用いて、光および熱によってラジカルを制御することで望む時に分解させることができる自在分解型WBPUの創製および、分解後のリサイクル法の開発を目的とする。 具体的には、Poly(oxytetra methylene)glycol(PTMG)、ジイソシアネートにイソホロンジイソシアネート、鎖延長剤に1,4-ブタンジオール、自己乳化剤にジメチロールプロピオン酸、中和剤にトリエチルアミンを使用して合成したWBPUを用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬品の1部であるヒンダードアミンスタビライザー(HALS)を企業より提供してもらうことができ、これによって物品代が82,575円余剰となった。旅費の赤字58,110円を相殺することで予算全体として24,465円余剰となった。翌年度(平成30年度)分は合わせて1,624,465円となるが、研究が順調に推移しているので余剰分24,465円は旅費に充てる。
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