研究課題/領域番号 |
17K05950
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
木口 倫 秋田県立大学, 生物資源科学部, 准教授 (70457761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 季節性インフルエンザ / 抗ウイルス薬 / 医薬品 / 都市排水 / 河川 / 分子マーカー / 流行予測 |
研究実績の概要 |
本研究では,季節性インフルエンザ流行拡大阻止のため,水域に流出した抗インフルエンザ薬等(タミフル:OP,代謝物:OC)と数種の医薬品類を分子指標としてモニタリングし,水域内での季節性インフルエンザ患者数の増減推移との関係を解析したうえで早期流行予測につなげる技術の開発を目的に調査研究を行ってきた。令和2年度は, 平成29年度から令和元年度までのデータを用いて以下の(1)と(2)の検討を中心に行った。 (1)都市排水中の抗インフルエンザ薬等の流出特徴 対象水域は秋田市中心部を貫流する旭川下流域であり,3つの都市排水域(旭川,太平川,猿田川)について検討した。OC濃度は,3年間を通じて太平川の都市排水域で最も濃度レベルが高く(平均38~54 ng/L),しかもOCの高濃度検出地点(ホットスポット)が他の排水域よりも複数存在していることが明らかとなった。これらの地点では,アンモニウム態窒素や硝酸態窒素の濃度が他の排水域よりも高く,OCは下流域内の汚水処理未整備区域や浄化槽排水区域から流出していることが示唆された。 (2)抗インフルエンザ薬等の濃度と季節性インフルエンザ患者数の推移との関係 季節性インフルエンザ流行期間中(12~3月)に都市排水域で検出されたOC濃度(地点平均)と,秋田市保健所管内での週間インフルエンザ患者報告数(定点/人)の増減推移とを比較した結果, 各地点でのOC濃度の合計値(総濃度)と,インフルエンザ患者報告数の増減推移とは,3か年間ともに類似の傾向を示した。このことから,都市排水中のOC総濃度の増減推移は,旭川下流域での季節性インフルエンザの流行状況を反映しているものと推察された。一方,排水域別にみると,互いの増減推移の傾向が異なる場合がみられた。これは,排水域ごとの流行状況の違いを示唆していると考えられ,地域ごとの流行予測に有用な情報源になりうると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は,平成29年度から令和元年度の3か年間に得られた抗インフルエンザ薬等の流出特徴(濃度,負荷量等)と同時に,その流出特徴と季節性インフルエンザの患者数との関係を検討し,早期流行予測につなげる技術の開発に着手する計画であった。調査(試料採取)については,新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言の発出と前後する期間(令和2年3月~4月)があったものの,感染防止対策を取りながら予定どおり実施できた。しかし,試料の分析(前処理)・測定及び流出特徴の解析・評価は当初計画の日程が大幅に遅れることとなった。また,調査水域を含む都市域での季節性インフルエンザ患者数のデータ入手と解析にも計画の遅れが生じた。早期流行予測の検討は当初計画から日程の大幅な変更を余儀なくされたため,本検討については令和3年度に研究期間を延長して行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
今後,令和2年度に実施した坑インフルエンザ薬等以外の数種の医薬品類の流出特徴や,これらの濃度や負荷量等と季節性インフルエンザの患者数の増減推移との関係についてさらに検討を進め,早期流行予測への分子マーカーの寄与や有用性の有無を明らかにする。また,前年度の計画から漏れた分子マーカーの流出パターンと地理情報とを連動させた流行状況の可視システム(マップ化)を検討する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症による緊急事態宣言により,前年度末に調査した試料の分析やデータ解析等の実施は,当初計画から日程の大幅な変更を余儀なくされた。このため,当初計画で購入を計画していた資料等の入手や購入ができず,次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額については,当初計画のとおり資料等の入手や購入等に全額を充てる。
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