研究課題/領域番号 |
17K05956
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
瀬古 典明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員(定常) (10354953)
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研究分担者 |
植木 悠二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (50446415)
保科 宏行 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (60446416)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線照射 / RAFT重合 / エマルション重合 / 放射線グラフト重合 / 吸着材 / 放射光XAFS |
研究実績の概要 |
これまでの検討において、アクリロニトリル(AN)のRAFTエマルショングラフト重合では、様々なRAFT剤の存在下でいずれの系でもRAFT剤がグラフト重合の反応阻害剤として働く傾向が強く、グラフト重合度が抑制される反応系であることがわかった(~R元年度)。そのため、ANを用いるRAFTグラフト重合は、敢えて分子量1,000以下の低分子量の短グラフト側鎖を合成する手法として位置づけた。 官能基導入量を増加させる場合、グラフト側鎖の分子量を増大させる必要があり、反応性の高いモノマーを選定することが重要である。ここで、上述のAN/RAFTグラフト重合の反応現象から考察すると、反応性の高いモノマーを利用する場合、またはRAFT剤を添加する系においては、照射によるラジカル付与量を低減させ、グラフト鎖の末端に位置するRAFT剤を反応起点とすることで、その反応を制御可能なことを示唆している。この結果を受け、令和2年度は、高分子量、つまりグラフト鎖を長鎖型にする検討を進めた。長鎖型の候補として、グリシジルメタクリレート(GMA)をモノマーとするグラフト重合物をRAFT剤の無い系で合成し、次いでGMA末端のエポキシ基にN-メチルDグルカミン(NMG)を導入して吸着材を作製した。NMGはオキソニウムイオンに対して選択性がある代表的な官能基であるため、ヒ素を対象にしてグラフト鎖の挙動を追跡した。放射光XAFSを用いたin-situ吸着試験において、NMG吸着材を充填したセル中に中性のAs(Ⅲ)溶液を通液し、吸着材中に捕捉されたAsの結合状態を観察したところ、時間の経過とともに、As(Ⅴ)に起因する新たな吸収端が出現し、ピークが高エネルギー側へシフトしていく傾向が見られた。これは低分子量の側鎖では観察できなかった結果であり、長鎖型側鎖の効果であることが示唆された。今後詳細について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスによるテレワーク業務の推進など、組織の方針により実験環境に制約が生じ、予定していた実験に支障をきたした。しかしながら、R2年度に掲げた長鎖型グラフト鎖を有するグラフト重合物の合成検討では、共同研究者と協力して検討を進め、モノマーとしてGMAを選定することができた。GMAのグラフト重合は極めて一般的ではあるが、これまでの単に合成するという条件抽出ではなく、長鎖型として機能するグラフト重合条件とNMG導入条件を見出せたことは成果の一つとして位置づけることができる。また、SPring-8のマシンタイムを継続して獲得し、放射光XAFSを活用したin situにおいて吸着挙動を追跡できたことで、長鎖型の特長であることが示唆できた。そのため、本年度の進捗としては「おおむね順調に進展している」とした。但し、未検討内容があることに加え、詳細な検証及び成果発信が重要であると考え、1年間の延長申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、長鎖型及び短鎖型の特長をいかせる材料設計に展開するため、これまでに未達成であった材料充填型のモジュール化を進める。これによりグラフト構造物としての評価を深化させ、長短鎖の特性差異の把握に努める。また、継続して放射光によるXAFS実験や多様な評価を加え、これまでの考察の妥当性を判断する。 令和2年度を最終年度として計画した研究であったが、コロナ渦により遅延した研究項について、早い段階で補足・確認試験を実施し、当初目的を遂行できるよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由:本研究を遂行するにあたり、コロナ渦の影響により当初予定の研究に遅延が生じたことに加え、試薬類の調達納期にかかる制約も生じた。そのため、その間に実施予定の研究をそのまま令和3年度に移行して進めることとした。
使用計画:照射実験及び吸着材性能評価の際に必要となる試薬や評価装置用キャリアガスの購入費として充当する。
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