研究課題/領域番号 |
17K05966
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷口 育雄 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (30314305)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アミン / ガス分離 / 高分子膜 / 触媒 / 二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
CO2回収貯留技術(CCS)は、温暖化および気候変動問題の有効な解決策として研究されているが、その実用化のためには効率的な省エネルギーCO2分離回収法の確立が必須である。膜分離法は、分離膜を境界に供給側と透過側ガスの化学ポテンシャル差(分圧差)が駆動力となり分離が進行するため、加熱などの追加エネルギーが不要であり、次世代のCO2分離回収法として着目されている。これまで種々のCO2分離膜が開発されており、アミンを分離膜に添加することによって、CO2選択性を著しく向上させることがわかっている。しかしながら、その実用化にはCO2透過性の向上が必須である。 申請者は、アミン含有高分子膜のCO2分離メカニズムの解明を行ってきた。特に水蒸気存在下では、CO2は主にHCO3-となり透過することを明らかにした。ここで、分離膜の膜厚が5ミクロン以下では、HCO3-生成がCO2透過の律速段階(溶解律速)となっているため、HCO3-生成効率の向上がCO2透過性のさらなる向上に繋がる。これまでの予備検討において、ピペラジン誘導体の添加によって高分子膜のCO2透過性向上が確認されており、これはピペラジン誘導体がHCO3-生成を触媒したためであると考えられる。本研究は、(1) CO2透過促進因子としてピペラジン誘導体のHCO3-生成触媒メカニズムを解明し、促進因子の構造と触媒機能の相関を明らかにし、(2) 高CO2透過性分離膜材料の創成を目的としている。 本研究によりCO2透過性の飛躍的向上が達成できれば、高CO2透過性高分子膜の開発が可能となり、大規模CO2発生源である石炭火力発電所などからのCO2分離を目的とした高性能CO2分離膜の研究開発にも重要な情報を与えると期待できる。その結果、CCSの実用化が可能となり、温暖化および気候変動を抑制することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、2-(2-aminoethylamino)ethanol (AEAE)をCO2キャリアとしてpoly(vinyl alcohol) (PVA)に物理固定した高分子膜が良好なCO2分離性能を発揮し、さら1分子中に水酸基を2つ有するピペラジン誘導体3-(piperazin-1-yl)propane-1,2-diol (DHPP)を添加することにより分離性能が向上することを明らかにしてきた。AEAE比でDHPPを2-10 wt%と触媒量添加した際、CO2/CH4混合ガスからのCO2分離では、それぞれCO2透過流束と選択性は、37 GPUおよび184、そして45 GPUおよび125となった。AEAEのみ(選択性62)と比較して分離性能が著しく高くなることがわかった。CO2がDHPPと相互作用した際に、DHPPの水酸基とCO2が水素結合した7員環構造を形成することが13C NMRから明らかとなった。これにより、CO2との相互作用が容易となり、形成されるカルバミン酸が加水分解してHCO3-を生成し易くなったためと考えられる。これまでは膜厚が8-11 ミクロン程度の自立膜を調製してCO2分離性能の検討を行ってきたが、目標の100 GPUを達成するために薄膜化を検討する必要がある。そこで、循環塗布法により、中空糸膜モジュールの中空糸膜内表面に本膜材料の薄層を形成する検討を行っている。現時点で、膜厚は未測定であるが、CO2透過流束と選択性62 GPUおよび54を達成している。 また、アミン含有高分子膜の構造解析も検討した。PVAは結晶性高分子であるが、DHPPなどのアミンと相溶性が高く、アミンと含有することによって非晶状態となることがX線回折の結果から明らかになった。また、ミクロ相分離などの相分離構造を形成していないことが示差走査熱量測定や小角X線散乱測定からわかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より、アミン含有高分子膜に触媒量のピペラジン誘導体DHPPを添加することによってCO2分離性能が向上することがわかった。得られた分離膜のCO2選択性は非常に高く、目標値であるCO2透過流束100 GPUを達成するために、高分子膜のサブミクロンオーダーの薄膜化の検討を引き続き行う。具体的には、高分子膜材料は水溶性であるため、膜材料の水溶液を市販の水処理用中空糸膜モジュールの中空糸膜内を循環させ、膜内表面にCO2分離機能層として膜材料の薄層形成を検討する。予備検討結果から、すでに平膜よりも高い62 GPUを示すCO2分離膜モジュールが得られている。この循環塗布において、水溶液の粘度(濃度)、循環時間、および循環速度はCO2分離機能層の膜厚を決定する因子であり、これらの条件検討から循環条件の最適化を行う。 また、加湿条件下でのCO2分離実験において、N2、H2、およびCH4との混合ガスからのCO2分離を検討した結果、CO2透過流束はこれら分離対象ガスに関係なく非常に高いことがわかった。これらのガスの透過とは異なる機構で分離膜を透過していることを示唆している。よって、軽炭化水素の改質によるH2製造のカーボンフリー化以外にも、バイオガス中のCH4濃縮にも有用であると期待できる。よって、最終年度では、CO2分離膜モジュールの実用化を検討するにあたり、耐久性評価と用途先についても探索を行う。
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備考 |
研究代表者の研究室ホームページ
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