研究課題/領域番号 |
17K05969
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
原 正則 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40457825)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チップ増強ラマン分光法 / in-situ観察 / 水電解 / アノード触媒 / 酸素発生反応 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、高触媒活性を有する水電解用アノード触媒の開発のための触媒反応機構の解明を目指して、ナノ粒子担持触媒上での酸素発生反応のその場観察手法である溶液中チップ増強ラマン分光法(TERS)の開発を行う研究であり、H30年度は、新規水電解用アノード触媒の合成、および導入された溶液中原子間力顕微鏡(AFM)装置を用いた電位制御下でのグラフェンの観察、大気中TERS測定を用いたTERS用探針の評価を行った。 新規触媒の合成においては、酸化イリジウムナノ粒子をグラフェン等のナノカーボン担体に担持した触媒に対し、ナノ粒子触媒の合金化及びナノカーボンへの異種元素(窒素、ボロン)のドーピングにより、酸素発生反応に対する触媒活性を10倍程度向上することに成功している。また、触媒活性の向上と触媒粒子の電子状態の関係についてもX線光電子分光法を用いて評価行い、酸化イリジウムの電子状態の変化が触媒活性向上に大きく寄与していることを明らかとした。 溶液中TERS測定の開発については、その基礎となる溶液中AFM測定用のカンチレバーホルダーおよび溶液セルの導入を行い、まず溶液中でのAFM測定によるグラフェンの観察を行った。電位制御下において、基板電極上に均一に分散された酸化グラフェンの観察に成功した。また、溶液セルを用いずに大気中にて同サンプルのTERS測定を行い、ラマンシグナルの増強が起きることを確認した。しかしながら、溶液中の測定では検出されるラマンシグナルの強度が低下してしまうため、測定に用いる探針の改良を進めてさらにラマンシグナルの増強度を向上する必要がある。 今後は、グラフェン上に酸化イリジウムナノ粒子を高分散担持した試料を用いたTERS測定、および溶液中でのTERS測定を行い、酸素発生反応の反応機構の解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高活性な水電解用触媒の開発を目指して、新規アノード触媒の合成、反応機構解明のための溶液中でのチップ増強ラマン分光法(TERS)の開発、TERS測定用のモデル電極の作製の3つの研究テーマを進めている。 上記のテーマの内、新規触媒の合成については当初の計画よりも高活性な触媒の合成に成功しており、また触媒活性に影響を与えると予想される触媒の電子状態についても評価が進んでいる。しかし、電子状態の変化と反応機構の関係について明らかにするためには溶液中での吸着種の同定や反応サイトの解明が必要となる。 この反応機構解明のための溶液中TERSの開発については、ベースとなる溶液中原子間力顕微鏡(AFM)装置の導入が当初予定よりも1年程度遅れてしまったために、測定装置の開発の進捗が全体的に遅くなっている。この点については、2019年度は溶液中TERS装置開発に集中して研究を進めることで当初の計画を満たせると予想される。 また、TERS用のモデル試料の作製については、溶液中TERSの開発が遅れているためにまだTERSによる評価は行っていないが、モデル電極として使用可能なグラフェン上に酸化イリジウムナノ粒子を担持したサンプルの合成と電子顕微鏡による観察に成功しており、おおむね順調に進んでいるといえる。 このように、触媒合成は予定より進捗が良く、溶液中TERS開発は予定よりやや遅れており、モデル電極作製はほぼ予定通りの進捗状況であり、総合してほぼ予定通りの研究進捗状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、現在進捗の遅れている溶液中TERS測定の開発に集中して研究を進める予定である。測定のサンプルには、これまでに開発してきた酸化イリジウムナノ粒子担持グラフェンのモデル電極を使用し、測定の探針には大気中TERS測定に用いた探針を利用する。測定セルには溶液中AFMのセルを用い、溶液中TERS測定によるサンプルの計測を行い、得られた結果を基にカンチレバーホルダーおよび溶液セルの改良を進める。また、探針についても、溶液中の測定に適した作製条件の最適化を進め、TERS測定により得られるラマンシグナルを十分に大きく出来る条件を検討する。 溶液中TERS測定法の確立に成功した後は、2018年度までの触媒合成の研究成果に基づきモデル電極の合金化や担体への異種元素のドーピングを行い、触媒活性の向上と反応機構の関係についての評価を進める。 上記の研究を通して、高活性な水電解触媒を開発するための指針の確立を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
溶液中TERS測定装置のセル改良の費用について、装置の導入が1年遅れてしまったために予定していたTERS装置の改良まで研究が進まなかったため、費用の使用額に当初計画よりも余りが生じたが、今年度の研究においてTERS装置の改良を進める上で予算を使用する予定である。
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