研究課題/領域番号 |
17K05970
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
伊藤 博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (60356483)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アニオン交換膜 / イオン置換 / 電極触媒層 / 結着材 / アイオノマ |
研究実績の概要 |
アニオン交換膜(AEM)を用いた水電解装置は,低コストで高性能な水素製造装置として期待されている.しかしアニオン交換膜は大気中の二酸化炭素(CO2)を容易に吸収し,膜中水酸化物イオン(OH-)が炭酸イオン種(CO32-/HCO3-)に置換されてしまい,膜のイオン導電率の低下を招くという問題がある.一方で水電解運転によって炭酸イオン種が水酸化物イオンに再置換される可能性が示唆されている.本研究ではこのイオン置換および再置換のメカニズム解明することを主要な課題としている. このイオン導電率の変化は主にセル抵抗の形で測定されるが,幅広い電流範囲で繰り返しセル抵抗を測定するためには,安定して優れた電解性能を発揮できる電極触媒層の存在が不可欠である.電極触媒層は,セルのアノードにおいては酸素を,カソードに置いては水素を発生させる触媒を担持した層であり,アニオン交換膜に接着した構造を有する.今年度は,触媒層の性能改善を図るため,触媒層の担持方法や塗工方法について,様々な手段を駆使して,その最適化を行った. 数多くの種類の触媒層とそれらを用いた電解実験を行うことで,下記のことが明らかになった.1)カソード(水素発生極)触媒は比較的安価なニッケルを用いることが可能であるが,白金を用いることで,その性能は飛躍的に向上する,2)カソードは運転中ほぼドライの状態を維持できるので,アニオン交換膜上にアイオノマを結着剤として触媒を直接塗工する構造が適当である,3)アノード(酸素発生極)は電解液に直接触れるため,化学的安定性が求められるため,アイノマでは触媒を保持できず,PTFEを結着剤に用いて高温で焼結させた構造とする必要がある.このような構造の電極触媒層を用いることによって,1A/cm2までの電流で少なくとも数日間は安定した電解を行えることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で主要な課題とする「イオン置換および再置換のメカニズム解明」には安定して優れた性能を発揮する電極触媒層の開発が不可欠である.そのために今年度は触媒層の高性能化に注力した研究開発を行った.その結果予想を超える性能を発揮できる触媒材料と構造を特定できた.次年度以降は,この電極触媒層を駆使することで効率的な研究進捗を図ることが可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,特殊構造のセルを組み上げ,本研究で主要な課題とする「イオン置換および再置換のメカニズム解明」に本格的に取り組む.アニオン交換膜(AEM)水電解セルの構成部材と配置はプロトン交換膜(PEM)燃料電池やPEM水電解装置に倣っており,触媒層を接合したAEMを多孔性給集電体(ガス拡散層),流路付の複極板(セパレータ)で挟み込む.ただし従来のセルでは電解質膜の外周部がわずかに大気に接していた.この部分についても完全に大気と遮断するため,新たなセルを製作し,実験に供する.H30年度はこのセルを設計・作製し,気密試験を行った後,従来のセルと同等な電解性能を発揮できることを確認する.初期アニオン種を設定するため,そのセルに所定のアルカリ溶液を流し込んだ後,保持する.その後そのアルカリ溶液を排出して電解を開始する.AEM中イオン再置換の影響については,最初に導入するアルカリ溶液と電解液のアニオン種を変えることで特定できる.この場合,セル抵抗値の電解液導入からの時間経過依存性を調べることで,イオン置換の速度論的解析が可能になる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に着手する前に行った予備試験で,セル部材としてニッケル繊維焼結体が優れていたため,そのサンプルを多めに発注したが(60万円相当),製造元の不適際により納期が当初より半年以上先延ばしになった.一方残っていたサンプルを用いて再度実験したところ,初期性能は優れていたが,耐久性に問題が有ることが分かった.他の材料で代替できることも分かったため,同サンプルの購入を中止した.繰り越した予算は次年度の物品購入や旅費に充てる予定である.
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