研究課題/領域番号 |
17K05976
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30204043)
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研究分担者 |
山路 稔 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20220361)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機半導体 / フェナセン / FET |
研究実績の概要 |
(1)長鎖アルキル基を持つπ拡張フェナセンのFET挙動:分子長軸方向に長鎖アルキル鎖を有する[7]フェナセン(C14[7]フェナセン)の構造解析と薄膜電界効果型トランジスタ(FET)挙動の詳細を検討した.薄膜中でC14[7]フェナセンは,FET動作に有効な配列を持ち,長鎖アルキル鎖を持たない母体[7]フェナセンに比べて高い電荷移動度を示した.長鎖アルキル鎖によって,薄膜中においてFET動作に有利なC14[7]フェナセンの分子配列が実現されたためと考えられる.また,走査型トンネル顕微鏡(STM)で金属表面に吸着されたC14[7]フェナセンの分子構造と分子配列の詳細を観測することにも成功した. (2)フェナセンFETの評価:低電圧で駆動する[5]~[7]フェナセンのp-型FETを構築できることを示した.これらのデバイス中で,π系が拡張するに従って移動度は向上する傾向が観測された.これは,フェナセンの分子間π系相互作用が高まるためと考えられる. (3)イミド部位を持つピセンの合成とFET挙動:分子の両末端にイミド部位を導入したピセン誘導体(PicDI)を4ステップで簡便に合成した.固体中での分子間相互作用を制御する目的で,イミド部位のアルキル鎖長を変えた誘導体を合成した.フェナセン分子の短軸方向にイミドを持つ誘導体の合成例はあるが,長軸方向にイミド部位をを持つ誘導体の合成は初めてである.溶液中でPicDIはアルキル鎖長に依存しない電子スペクトルを示したが,固体中では,アルキル鎖長の違いによって異なる電子的挙動を示した.PicDIの薄膜FETはn-型で作動し,イミド部位のアルキル鎖がオクチル基の場合に最も高い電荷移動度を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)光反応をキーステップとするフェナセン骨格の構築は確立でき,種々の誘導体の合成を滞りなくすすめることが可能となった.π系が拡張したフェナセンは溶解度が非常に悪く,取扱が困難であったが,光反応を高温で行って反応後に最終生成物を沈殿として単離する実験手法を確立したことにより,当初の目的物の合成が可能になった. (2)高性能有機FET材料構築の分子設計に関して,π系拡張と,適切な置換基導入の両面から検討を重ねた結果,フェナセン分子長軸方向への長鎖アルキル基は移動度の向上に有効であることがわかった. (3)電子吸引部位となるイミドを分子の長軸方向へ導入したピセンを簡便に合成し,n-型FET挙動を観測した.このデバイスの移動度は従来n-型半導体として用いられてきたペリレンジイミドと同等で,フェナセンのイミド誘導体を用いて高性能n-型FETデバイスを構築できる可能性が示された.
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今後の研究の推進方策 |
(1)フェナセンFET材料の高性能化のためにフェナセン骨格と側鎖アルキル基の長さのバランスをとる必要があると考えられたので,π拡張系と側鎖の効果を再検討する.これにより,フェナセンFETのさらなる高移動度化を図る. (2)ピセンイミド誘導体がn-型半導体として作動することから,π拡張ホモローグを合成し,フェナセンによる高性能n-型FETデバイスを構築する. (3)フェナセンを使ってp-型とn-型半導体が構築できることが明らかになったので,フェナセンCMOS回路の作成と動作特性評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染の拡大にともない厚生労働省から「イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ」が発表され,3月22日(日)から24日(水)の期間で参加を予定していた日本化学会第100春季年会が中止となった.計画していた旅費の執行ができなくなったため次年度に研究成果発表の旅費と消耗品購入に使用する計画である.
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