研究実績の概要 |
有機半導体物質が今後の電子デバイスに求められていることを背景に,n個のベンゼン環がジグザグに連なる[n]フェナセン骨格を中心とする有機電子材料の開拓を検討した. (1)フェナセン類の合成:光環化反応をキーステップとする合成法を検討し,種々のフェナセンおよび関連化合物を構築した.(2)フェナセンを用いたFETデバイス:[n]フェナセンを活性層とする薄膜電界効果型トランジスタ(FET)は高い移動度を示すことを見いだし,フェナセンがFET材料として有用であることを示した.[5]フェナセンの分子両末端に電子吸引性のイミド部位を持つ誘導体を活性層とするFETデバイスはn型で作動し,これまで広くn型半導体として用いられているペリレンジカルボキシイミドと同等の特性を持つことを示した.(3)アセン-フェナセンハイブリッド材料の構築:[n]フェナセン(n = 5~7)の分子両端にベンゼン環を追加したジベンゾ[n]フェナセンは,アセンとフェナセンのハイブリッド構造を持つ.ジベンゾ[n]フェナセンの単結晶FETの有効電荷移動度を評価したところ,C2v対称の分子構造を持つ同族体に比べてC2h対称の分子の方が高い性能を示すことを見いだした.(4)有機電子回路の構築:3,10-ジテトラデシルピセンおよび[6]フェナセンをp型半導体として,C8-ペリレンジカルボキシイミドをn型半導体として用いるリングオシレータ回路の発振を確認し,フェナセンを用いて有機電子回路を構築できる可能性を示した.(5)フェナセンと関連化合物の電子特性:フェナセンおよび関連化合物の電子特性を調査する過程で,蛍光特性を示す化合物を見いだし,フェナセン骨格を有する蛍光体や分子内電荷移動型蛍光,励起状態分子内プロトン移動性蛍光体の評価を行った. 本研究の知見を礎として今後高性能有機電子材料の構築を進める計画である.
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